マンタはサメと同じく板鰓亜綱(ばんさいあこう)に属しています。約500万年前から存在し、海にいる他のエイの仲間とも近縁です。体は平たくなっていますが、もはや海底で生活することはなく、まるで空を飛ぶように胸びれを羽のように使い、水中を優雅に泳ぎ回ります。
この記事では、2種類のマンタの見分け方や、マンタに関する興味深いトリビアをご紹介します。

ナンヨウマンタ
学名:Mobula alfredi
2種類のマンタのうち、小型なのがナンヨウマンタです。平均的な体盤幅は3~3.5メートルですが、例外としてモザンビークに生息する個体群では、4~4.5メートルにまで成長することがあります。体重はおよそ1,300キロに達します。
メスのマンタはオスより大きく、妊娠中に胎仔を育てられるような体のつくりになっています。体の下面(腹側)は白地に黒い斑点があり、上面(背側)はより濃い色で、肩の部分に特徴的な白または灰色のY字模様が見られます。
名前の通り、このマンタはサンゴ礁の周辺に生息しており、食べ物の豊富さや季節に応じて短い回遊を行います。また、IUCNレッドリストでは絶滅危惧種(Vulnerable)に指定されています。
ちなみに、エイの仲間であるアカエイなどが持つ毒針は、マンタには一切ありません。見た目は大きく迫力がありますが、人に危害を加えることはない安全な存在なのです。

オニイトマキエイ
学名:Mobula birostris
マンタの中で最大種となるのが、このオニイトマキエイです。体盤幅は平均で4〜5メートル、時には7メートルに達することもあります。体重は2,000キロにも及びます。
腹側は白地に黒い斑点がありますが、ナンヨウマンタと異なり、エラの間には模様が見られません。また、背側の明るい模様はT字型をしています。
尾の付け根には握りこぶし大の軟骨の塊があり、これはマンタがアカエイから進化した証拠とされる痕跡器官です。現在では機能していません。
外洋に生息し、長距離の回遊を行うため、ナンヨウマンタよりも観察が難しいのが特徴です。そのため、IUCNレッドリストでは絶滅危惧種(Endangered)に指定されています。
さらに、研究の中で第3のマンタの存在も指摘されています。仮に「大西洋マンタ」または「カリビアンマンタ」と呼ばれるこの種は、オニイトマキエイとナンヨウマンタ両方の特徴を併せ持つ可能性があります。近い将来、遺伝子検査によって新種であるかどうかが明らかになると考えられています。

「ブラックモーフ」現象
マンタの2種には、それぞれ3種類のカラーモーフ(色彩変異)が存在します。一つ目は、シェブロン(Chevron)です。最も一般的で「クラシック」といえる模様です。背側は黒を基調とし、頭部や胸びれの先端に白い部分が見られます。腹側は白く、黒い斑点が点在します。
二つ目は、ブラックモーフ(Black Morph)。驚くべき色変異で、背側が完全に黒く、腹側もほぼ真っ黒。白い部分は鰓の周辺にわずかに残るだけです。ナンヨウマンタにおいては、このブラックモーフはモルディブの個体群ではほとんど見られず、一方でソコロ島周辺の個体群では多く確認されています。
そして、三つ目は、白変(Leucism/Leucitic Mantas)です。通常よりも色素が少なく、体全体が非常に白っぽく見える個体です。ただしアルビノではありません。なぜなら完全に色素が欠けているわけではなく、例えば目は赤くならないからです。体の背側にわずかに黒い部分が残っていたり、腹側の模様が薄く見えたりします。いずれにしても、平均的なマンタよりはるかに淡い色合いをしています。
マンタか?それともモブラか?
一般的にモブラ(Mobula)呼ばれるイトマキエイの仲間は、全部で9種ほど存在します。近年の遺伝子解析により、かつては「Manta」とされていたオニイトマキエイ(Mobula birostris)やナンヨウマンタ(Mobula alfredi)も、現在ではすべてイトマキエイ属(Mobula属)に統合されています。つまり、学術的にはマンタもモブラも同じ属に含まれる仲間です。ただし、ダイバーや海の愛好者の間では混乱を避けるために、依然としてそれ以外の小型種を 「モブラ」、巨大な2種(オニイトマキエイとナンヨウマンタ)を 「マンタ」と呼んで区別するのが一般的です。
では、マンタとどう区別できるのでしょうか?
まず、モブラは通常マンタより小型です。体盤幅は最大でも約3メートルです。マンタもモブラもどちらも濾過摂食者ですが、モブラは下顎が後退しています。つまり、口を閉じたとき、下顎の縁は上顎よりもずっと後ろに位置します。一方、マンタの顎は上下が揃っています。
また、モブラの頭鰭(とうき)は少し異なっており、巻き上げると角のように見えます。実際、この特徴が「デビルレイ」という名前の由来となっています。さらに、モブラには基本的に毒針はありませんが、例外としてイトマキエイのみ毒針を持ちます。ただし、その針はかなり短いものです。
加えて、モブラは大きな群れで行動する傾向があります。発見された場合、ダイバーは一度に数百匹の群れと一緒に泳ぐことを楽しめることもあります。ただし、モブラは非常に臆病な性質を持っており、接近できるのはほんの数瞬にとどまることもあります。

濾過摂食の達人
マンタの主な食べ物はプランクトンです。プランクトンとは「水中に浮遊し、漂流し、あるいは多少運動性をもつ生物の総称」です。プランクトンは大きく2つのグループに分けられます。微小な植物や藻類からなる植物プランクトンと、主に微小な動物からなる動物プランクトンです。
マンタはこのうち動物プランクトンを食べます。特に好むのは、カイアシ類、ヤムシ類、アミの仲間、そして魚の幼生です。ナンヨウマンタは1日に平均5キロ(約11ポンド)の動物プランクトンを食べることができます。
マンタは濾過に適応したエラを通してプランクトンを濾し取り、さらに特殊な頭鰭(とうき)を漏斗のように使って、口に入る餌の量を増やしています。大量のプランクトンを食べる必要があるため、マンタは実にさまざまな捕食戦略を編み出しています。代表的な方法は以下のとおりです。
水面摂食(Surface Feeding)
水面で口を大きく開けて泳ぎ、プランクトンを多く含んだ水を丸ごと飲み込みます。このときは、船の上からでも容易にマンタを見つけて観察することができます。
宙返り摂食(Somersaulting)
自然界が見せる最も美しい光景のひとつです。水中に濃密なプランクトンの群れがあると、マンタは水中で後方宙返りを繰り返しながら、その周囲を回って効率よく食べます。優雅で見事なショーのようです。
底層摂食(Bottom Feeding)
この方法では、マンタがまるで海底をこすっているように見えることがあります。しかし実際には海底からわずかに浮き上がり、プランクトンが濃縮されている層で餌を取っているのです。
列隊摂食(Forming Feeding Chains)
同じ場所で多くのマンタが同時に餌を食べていて、プランクトンの濃度が高いとき、マンタは一列に並ぶことがあります。先頭のマンタが取り逃がしたプランクトンを、後ろのマンタが効率よく捕らえるのです。互いに協力することで、摂食量を増やしています。
サイクロン摂食(Cyclone Feeding)
驚異的な光景であり、非常に珍しい現象です。例えばモルディブでは、1年に数回ほど観察されることがあります。プランクトンの濃度が極端に高いとき、何百匹ものマンタが巨大な列を形成します。その数は最大200匹にのぼることも。マンタたちは渦を巻くように泳ぎ、巨大な旋回流をつくり出します。この渦がプランクトンを吸い込み、待ち構えているマンタの口へと運んでくれるのです!

求愛と繁殖
自然の中でマンタの求愛や繁殖の様子を目撃できるのは、とても稀なことです。求愛は通常クリーニングステーションで始まります。メスが発情期に入ると、オスを引き寄せるホルモンを放出します。
オスは20分から最長48時間にわたってメスの後を追いかけます。その間、メスはオスたちの体力と持久力を試すように、急旋回や急潜降を繰り返し、まるでダンスのような動きを見せます。そして最後に一匹のオスだけが残ります。選ばれたオスはメスの左側の「翼」を口でつかみ、メスの下に回り込んで向かい合う姿勢をとり、交尾が始まります。交尾はわずか数秒で終わります。
オスが残した噛み跡によって、メスがすでに交尾を経験したかどうかを確認することができます。妊娠期間は約1年で、メスは1匹の仔マンタ(まれに2匹)を出産します。仔マンタは生まれたときすでに体盤幅1.5メートルほどあり、母親の授乳を受けることなく自力で泳ぎ出します。
しかし残念ながら、マンタの繁殖サイクルは3~5年に一度とされており、そのため個体数の減少や将来的な絶滅のリスクが深刻視されています。さらに、生まれて生き延びる仔マンタの数よりも、人間によって殺されるマンタの数の方が多いのが現状です。

マンタに会える場所
マンタは世界中の温暖な海に広く分布しており、大西洋、太平洋、インド太平洋地域などに生息しています。これらの穏やかな巨人たちは、餌が豊富に得られる場所(フィーディングサイト)や、体をきれいにしてもらえる場所(クリーニングステーション)を定期的に訪れます。
フィーディング・ステーション
ある特定の時期に食べ物が特に豊富になるエリアです。これらの場所は季節的で、動物プランクトンの濃度が海流や気象条件(例:モルディブのモンスーン)に左右されます。
クリーニング・ステーション
まるで「水中の洗車場」のような場所です!マンタはここに集まり、ホンソメワケベラなどのクリーナーフィッシュに古い皮膚や寄生虫、食べかすを取り除いてもらいます。平均的に、メスのマンタはオスよりも長くクリーニングステーションに滞在する傾向があります。
マンタの見分け方
マンタは一匹一匹が異なります。方法はシンプルで、お腹側(腹面)を見ることです。そこにある黒い斑点の模様は、人間の指紋と同じように個体ごとにユニークなのです。
次のステップは、その模様を写真に撮って研究機関に送ること。研究者たちはすでに蓄積された巨大なデータベースと照合し、そのマンタがすでに登録されているかどうかを調べます。もし新しい個体であれば、あなたが名前をつけることも可能です!

マンタと潜るときの行動規範
忘れてはいけないのは、海の世界は私たちのものではないということです。マンタと一緒に潜ったり泳いだりするとき、私たちはあくまで「お客様」。だからこそ、マンタと安全で持続可能に共存するために、以下のガイドラインを守ることが大切です。
- ゆっくり近づき、音を立てない
- フラッシュ撮影は最小限に。特に目に直接フラッシュを当てないようにしましょう。
- 距離を保つ。最低でも約3メートルは離れて観察しましょう。もしマンタの方から近づいてきても、落ち着いてそのまま動かずにいれば大丈夫。マンタは人を傷つけません。
- 「見るだけ」で「触れない」。不必要に干渉せず、観察時間も長くなりすぎないように心がけましょう。
- 常に常識と思いやりを忘れずに。この素晴らしい生き物たちに対して敬意を持って接してください。

Did You Know…?マンタの豆知識
ここでは、マンタに関する興味深い事実や、よくある質問への答えをご紹介します。
名前の由来
マンタという名前の由来は、ある伝説にまつわるものです。何世紀も前、スペインの漁師たちは、大きなマント(スペイン語で manta)のように見える巨大な魚に出会い、恐怖を覚えました。もし海に落ちたら、この生き物が体を包み込み、溺れさせるのではないかと恐れられていたのです。
泳ぎ続けなければならない理由
マンタは泳ぐのをやめると沈んでしまいます!サメと同じく、マンタの骨格は軽い軟骨でできており、エネルギーの節約にはなりますが、体重は1トンを超えます。肝臓に含まれる油分で浮力をある程度調整できますが、基本的には泳ぎ続けることで体を支えています。
もうひとつの理由は呼吸です。泳ぐことで酸素を含んだ海水がエラを通り、呼吸が可能になるのです。止まったままでは水流を生み出せないため、動き続ける必要があります。
繁殖は命の原動力
オスのマンタは2本の交接器(クラスパー)を持っています。これは軟骨魚類特有の構造で、繁殖のために発達したものです。ただし、メスに2つの膣があるわけではありません。メスは1つの総排出腔(クロアカ)を持ち、生殖・消化・排泄の管がそこにつながっています。
マンタに毒針はあるの?
マンタには毒針はありません。まれに背びれの後方に使われない棘が見られることもありますが、機能はしていません。つまり、マンタはまったく無害です。水中でマンタと一緒に過ごすひとときは、忘れられない感動を与えてくれます。ただし、水中でのマナーを守ることは忘れずに。
賢いマンタ
解剖学的な研究により、マンタの脳は非常に大きいことがわかっています。体重に対する脳の比率は、これまで調べられた魚の中で最大です。高い認知能力を持っていると考えられており、現在も研究が進められています。
参考までにジンベエザメを思い出してみましょう。ジンベエザメはマンタの10倍もの大きさになりますが、脳の大きさはマンタのわずか3分の1しかありません。
実際、マンタが人に関心を示すかのように近づいてくる姿を目にしたダイバーも少なくありません。
モブラのジャンプ
なぜモブラ(イトマキエイ類)が水面から飛び跳ねるのか、正確な理由はまだわかっていません。研究者の間では、求愛行動の一種である可能性が高いと考えられています。ザトウクジラと同じように、ジャンプで音を立てて仲間を引き寄せたり、優位性を誇示したりしているのかもしれません。また、寄生虫を落とすため、あるいは捕食者から逃れるための行動とも考えられています。マンタもジャンプをすることはありますが、実際に目撃されることは非常に稀です。

脅威と解決策
マンタの自然界における捕食者は、一部のサメ、シャチ、そしてオキゴンドウです。ときどき、マンタの翼にサメに噛まれた特徴的な「半月型の跡」が残っているのを見ることがあります。しかし、マンタにとって最大の脅威は人間とその活動です。釣り針や漁網によって傷つけられたり、絡まって命を落とす(混獲)ケースが後を絶ちません。
マンタの肉は、味や食感の点で特に好まれるわけではありません。しかし狙われるのはエラ(鰓板)です。中国の伝統医療では、マンタのエラに免疫力を高めたり、がんを予防したり、授乳中の母親を助けたりする効能があると信じられてきました。ですが、これらを裏付ける科学的根拠は一切ありません。むしろ近年の研究では、マンタの鰓板からWHOが安全とする基準値の20倍を超えるヒ素など、有害な重金属が検出されています。にもかかわらず、スリランカやインドをはじめとする国々では、マンタ漁業が高度に発展してしまっているのが現状です。
では、どうすればいいのでしょうか?たとえば 啓発キャンペーンで正しい知識を広めること、持続可能な漁業戦略を進めること、代替手段を取り入れたマンタ保護プロジェクトに取り組むこと、そして マンタ由来の製品を買わないこと が挙げられます。
そして何よりも大切なのは、マンタが自然の生息地で生きている姿を見に行くことです。エコツーリズムを通じて、マンタには「生きている方が価値がある」という経済的な意味を持たせることができます。つまり、殺すよりも守った方がはるかに有益なのです。

マンタを救う人々
ここ数十年で、マンタを研究し守るための取り組みは大きく広がってきました。海への情熱に突き動かされた人々が、さまざまな団体を立ち上げています。そしてその力をひとつにし、ネットワークを築くことで、この素晴らしい生き物たちを守る活動が行われています。
詳しく知りたい方は、Manta Trust、Marine Megafauna Foundation、Project Manta をぜひチェックしてみてください。
マンタと泳ぐ準備はできていますか?
日本でマンタと出会える代表的な場所といえば、やはり沖縄県・石垣島です。なかでも有名なのが「マンタスクランブル」と呼ばれるダイビングポイント。季節によっては高確率でマンタの群れに遭遇でき、透明度の高い海で悠々と舞う姿を間近に観察することができます。ダイバーにとって石垣島は憧れの地であり、初心者から上級者まで楽しめる多彩なポイントがそろっています。
マンタに出会うためには、PADIのコースを受講することがおすすめです。まずはPADIオープン・ウォーター・ダイバー(OWD)コースでライセンスを取得し、マンタに会える水深まで安全に潜れるスキルを身につけましょう。さらに、アドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー(AOWD)コースでディープダイブや中性浮力を磨けば、外洋や流れのあるポイントでも安心して潜れるようになります。
また、ピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー(PPB)スペシャルティでは、サンゴや環境を傷つけずに安定して観察できる中性浮力を習得できます。加えて、水中フォトグラファー・スペシャルティを受講すれば、出会ったマンタを美しく撮影し、一生の思い出として残すことができるでしょう。
マンタと出会う体験は、きっとダイバー人生のハイライトになるはずです。次の休暇には、マンタとの感動的な出会いを目指して、出かけてみませんか?
執筆・協力
本記事は、海洋保全や教育に関する数々のプロジェクトに携わる海洋生物学者 マリオ・パッソーニ と ルカ・サポナリ によって執筆されました。
また、Manta Trust の ニヴ・フロマン、タム・ソウワーズ、サラ・ルイス、ニコラ・バセット、Project Manta の アジア・アームストロング、そして Marine Megafauna Foundation の アンナ・フラム の皆さまに感謝いたします。


