ダイビング中、うまく耳抜きができず、困ったことはありませんか?
耳は聴覚と平衡感覚を左右する繊細な器官であり、ダイビング中に発生する急速な圧力変化には対応できません。 そのため、耳抜きが必要になります。 正しく耳抜きができないと、軽い耳の不具合から永続的な損傷まで、さまざまな耳の症状に襲われる可能性があります。
今回の記事では、耳抜きの方法とコツをご紹介しますので、ぜひご自分にあった方法を見つけてくださいね。
なぜ耳が痛くなるの?
外耳と内耳の中間にある中耳腔は一定の空気で満たされており、咽頭につながる耳管を介して外気に通じています。
中耳腔内の空気圧が、外耳及び内耳の空気圧と差異が生じた場合、中耳に痛みが生じ、耳の損傷につながります。 これはもっともよく見られる気圧変化による耳の損傷のケースです。
耳抜きにおいて鍵となるのは、普段閉じている耳管を開くことです。 耳管には弁のような「エウスタキオ管クッション」があり、鼻の中の異物が中耳に移動するのを防ぐ役割を持っています。 唾を飲み込むなど、意識的に耳管を開くことで、喉からより高い圧力の空気が中耳に送られます。
唾を飲み込むことで、人は毎日無意識のうちに耳抜きをしています。 酸素は中耳の組織に吸収され、空気圧を下げます。 唾を飲むと、軟口蓋筋が耳管を開き、空気を喉から中耳に入れ、圧力差を解消してくれます。 唾を飲むときに聞こえる「パッ」や「ピッ」などの音はまさにそれです。
しかしスクーバ・ダイビングでは、このような日常的にしている耳抜きでは解消できない、遥かに大きく速い気圧変化に対応する必要があります。
耳抜きにはさまざまな方法がありますが、「耳管を開き、中耳腔に空気を送る」という共通点があります。さっそく基本的な方法を見ていきましょう!
耳抜きの方法
方法1.喉の筋肉を緊張させ、あごを前方に押し出す
軟口蓋筋と喉の筋肉を緊張させながら、あくびをするように、あごを前後に動かします。 この動作をすることによって、耳管が開きます。 この方法をマスターするには練習が必要ですが、これらの筋肉をコントロールし、継続的な耳抜きのため耳管を開けたままにできるダイバーもいます。
方法2.鼻をつまんで、唾を飲み込む(トインビー法)
鼻孔がマスクで塞がれた状態で唾を飲み込みます。 飲む動作によって舌が動き、耳管が開いて耳抜きができます。
方法3.鼻をつまみ「ケー」と声を出す(フレンツェル法)
鼻孔を閉じ、力んで重りを上げるように喉の奥を閉じます。 そして「ケー」という声を出します。これによって舌の奥が押し上げられ、耳管が開きます。
方法4.鼻をつまんで息み、唾を飲み込む
バルサルバ法とトインビー法の融合させたものです。 鼻孔を閉じて息みながら唾を飲みます。
方法5.鼻をつまんで息み、あごを押し出す
軟口蓋(口の天井の奥にある軟部組織)と喉の筋肉を緊張させると同時に、あごを前後に動かし、バルサルバ法をします。
方法6.鼻をつまみ息む(バルサルバ法)
ほとんどのダイバーが講習で学ぶオーソドックスな方法です。 鼻をつまんで口を閉じ、鼻から空気を出します。 これによって喉に圧がかかり、耳管が開いて中耳腔に空気が送られます。
しかしこの方法には三つの問題点があります。
1. この方法では、耳管を開く筋肉が活性化されないため、耳管がすでに圧力差により閉ざされている場合は効果がありません。
2. 力を入れすぎると耳を傷める危険性があります。
3. つまられた鼻から空気を出そうとすると、内耳の液圧など内部の液圧が上昇し、正円窓が破裂する可能性があります。 そのため力を入れすぎないよう、また5秒以上圧力をかけないように気をつけましょう。
唾を飲み込むなどの耳抜き法は、通常閉ざされている耳管を開けることで、外耳と内耳の圧力差を解消するものです。 最も安全なのは、喉の筋肉を利用して耳管を開ける方法です。残念ながら、ほとんどのダイバーが最初に学ぶバルサルバ法では、これらの筋肉を活性化せず、強制的に空気を喉から耳管に送っています。
バルサルバ方法を使う場合、外圧変化の前に耳管が開かれていれば問題ありませんが、早い段階で耳抜きをしなければ、圧力差によって軟組織が耳管を閉ざしてしまいます。 このタイミングを逃してしまうと、空気を送り込もうとしても耳管は閉ざされたままになってしまいます。 中耳に空気が届かなければ耳抜きは失敗し、気圧外傷をおこす可能性があります。 さらに、バルサルバ法中に激しく力を入れると、内耳の正円窓と卵円窓が損傷する危険性があるので、注意が必要です。
耳抜きのコツ
難しそうに見えますが、耳抜きにもコツがあります。 ぜひ試してみましょう。
※大前提として風邪(気味)などで鼻が詰まっている場合は、耳抜きをすると無理が生じますので、ダイビングをしないようにしましょう!
コツその1.「パッ」の音の確認
乗船する前に、唾を飲み込んで「パッ」または「ピッ」の音が両耳から聞こえるか確認しましょう。 これによって耳管が開いているかを確認できます。
コツその2.潜る前に始める
潜る数時間前から、数分ごとにゆっくり耳抜きをしましょう。 そうすることで、早期潜降時に耳管が閉ざされる可能性を下げることができます。 また、休憩時にガムを噛むのも効果的です。
コツその3.水中に入る前に、水面で一度耳抜きをする
水中に入る際、BCDの排気やマスククリアで頭がいっぱいかもしれませんが、水面での耳抜きは、早期の潜降に影響します。 これによって耳管を膨張させ、少しだけ大きくすることができます。 効果は人によるので、効果がありそうなときのみ、ゆっくり加圧しましょう。
コツその4.潜降は足先から
空気は耳管を押し上げ、液体のような粘液は下方に流れる傾向があります。 研究によると、逆立ちの体勢でバルサルバ法をすると、50%より強く力を入れる必要があります。
コツその5.上を見る
首を伸ばすと、耳管が開きやすくなります。
コツその6.潜降ラインを使う
錨や潜降ラインを使えば、潜降スピードをより精確にコントロールすることができます。 ラインがない場合、思っているよりも遥かに速いスピードで潜降している可能性があります。 また、ラインがあれば、潜降中加圧を感じても気圧性外傷が生じる前に、すぐに停止することができます。
コツその7.こまめに耳抜きをする
頻繁に耳抜きをすることで、中耳腔の圧力をややプラスに保てます。
コツその8.痛みを感じたら中止する
痛みを我慢しながら無理に潜るのはやめましょう。 耳管が気圧差により閉ざされた可能性があり、そのまま潜り続けると気圧性外傷になる可能性もあります。
コツその9.喫煙と飲酒を控える
タバコとお酒は粘液膜を刺激し、耳管の粘液分泌を促進して、耳管を塞ぐ可能性があります。
コツその10.クリアなマスクを保つ
これは、海水が鼻に入ることによって粘液膜を刺激し、異物により耳管が塞がれるのを防ぐ効果があります。
Practice Makes Perfect – 継続は力なり
最初のうちは耳抜きに苦手意識を持つダイバーが多いですが、 練習を重ねていくうちにスムーズに出来るようになります。 このスキルはいつでもどこでも練習が可能なので、ぜひ気付いたときにやってみてくださいね。 また、鏡の前で喉の筋肉の動きを観察しながら練習すると、イメージしやすくなるのでオススメです。
しかし頑張りすぎは禁物です。 痛みや不調を我慢して続けると、耳に負担がかかり鼓膜を痛めてしまう可能性があるので、無理はしないようにしましょう。