なかなか減らないダイビング事故をゼロにするべく、世界最大規模のダイビング教育機関PADIと月刊『マリンダイビング』が2021年、タッグを組むことになりました。どうしたら潜水事故を無くせるのか、ダイビングをもっと楽しむためには何が必要なのか。私たちと一緒にダイビングのスキルアップについて考えを深めていきましょう。
~第2回~呼吸編
皆さんはダイビング中にどれぐらい「呼吸」を意識していますか? 陸では当たり前に無意識的に行なっている呼吸も、ひとたび水中に入れば大切なスキルへと変化します。ダイビング中の呼吸は、空気を体内に取り入れるだけでなく、パフォーマンスの向上において重要な役割を担っています。
改めて考え直してほしいダイビングの呼吸
ダイビングのときに「呼吸を意識して!」といわれたら、皆さんは「吸うこと」と「吐くこと」のどちらを強く意識しますか? 吸わなければ二酸化炭素濃度が高くなり苦しくなります。しかしここで少し考えてみてください。酸素も二酸化炭素も同じ気体であって、肺を膨らませることが当然できる限界は決まっています。この状態でさらに空気を吸おうとすればどうなるでしょうか。酸素が十分に含まれた新鮮な空気は少ししか吸えず、ずっと苦しい状態が続きます。苦しいとだんだん焦ってきて水中でパニックを起こす原因にもなります。
呼吸というものは吐かなきゃ吸えないんです。陸では普通にできる「息を吐くこと」ができないのは、初めて水中で呼吸をするときに吐く練習をしていないからだと思います。その原因にはインストラクターによる指導も含まれていることが少なくないです。
呼吸を改善すればできないことがぐんと減る
ダイビング中に「あれ?できないっ!?」という場面に出会ったら、まずは呼吸を意識してみてください。呼吸が乱れやすいビギナーダイバーの方は特に潜降のときに意識してみるといいかもしれません。適正ウエイトに合わせたはずなのに、潜降できない経験がありませんか? そのときどのような対処をしましたか? ウエイトを増やしたのだとすれば、それは大きなリスクにつながります。水中へ潜っていく際のストレスにより実は息を吐ききれていないことが多々ありますので、少し落ち着いて呼吸に集中してみると意外とすっと潜降できるかもしれません。
水中の呼吸は見える!
陸とは違って水中の呼吸は目で見ることができます。一度にどれぐらいの泡を吐いているのか、呼吸のペースはどうかなど可視化が可能です。ヒトの精神状態は呼吸に表れやすいです。緊張していれば浅くて早い呼吸、リラックスしていれば大きくてゆったりとした呼吸になります。一度に排気される泡の量、間隔をしっかりと見ていれば、「私のバディに何か異変が起きているかもしれない!」と気づくことができます。ただこれは正しいバディシステムが確立されている場合に限るので、正しいバディシステムについては今後お話していきます。
月刊『マリンダイビング』4月号では「ダイビングにおすすめの呼吸法」や「息を吐くことはどうやって体に覚えさえるのか」「吐くことができないダイバーが多い理由」など、より深い内容が特集されています。詳細は月刊『マリンダイビング』公式サイト「マリンダイビングWeb」をご覧ください。
今回の語り手
インストラクターを認定するIEで数多くのインストラクターを世に送り出してきた。一人でも多くの「美しいダイビング」ができるダイバーが育ってほしいと願う。自身もダイビングにのめり込んでおり、インストラクター育成にもアツい。