ダイビングの歴史は、古代の洞窟壁画に描かれた、水中で空気を吸い込む人々の姿にさかのぼります。当時、人々はヤギの膀胱を使って空気を貯め、水中での活動に挑戦していました。

その後、ダイビングベル、ヘルメット式ダイビングスーツ、地上から空気を供給するシステムなど、さまざまな装置が開発されました。これらの技術が、今日のレクリエーショナル・スクーバ・ダイビングで使用される器材の基盤を築いたのです。

スクーバ・ダイビングといえば、欠かせないのが「レギュレーター」です。これがなければ、私たちは水中で呼吸することができません。今回は、ダイビング・レギュレーターの歴史を簡単に振り返り、その進化を見ていきましょう。


デマンドバルブの誕生(1860年)

スクーバ・レギュレーターの原点は、「デマンドバルブ」の発明にあります。1860年、フランス人のブノワ・ルクイロールがこのコンセプトを考案し、特許を取得しました。当初は煙の多い部屋や有毒ガスが充満する鉱山で使用されていましたが、ブノワ・ルクイロールがフランス海軍中尉オーギュスト・ドゥナイローズと出会ったことで転機が訪れます。この二人の協力により、地上から空気を供給するシステムを用いた水中用「レギュレーター」が誕生しました。この器材は、ジュール・ヴェルヌの名作『海底二万里』(1870年)に登場するダイビング器材の着想源ともなったことで知られています。

A Rouquayrol-Denayrouze diving apparatus, in which air is pumped from the surface into a barrel-shaped reservoir, and then passes through the pressure-regulator built into the helmet.

アクアラングの革新(1943年)

それから80年以上が経過し、ジャック=イヴ・クストーとエミール・ガニャンが協力して、初の実用的なスクーバ・システムを開発しました。圧縮空気シリンダーシステムは1943年以前にも開発されていましたが、それらはフリーフロー型または手動制御型でした。

1943年に登場したアクアラング・システムは、デマンドバルブを使用してシリンダー内の圧縮空気をダイバーに供給する、画期的なシステムでした。このシングルステージ・ダブルホース型の「スクーバ・セット」は、デマンドバルブと排気バルブをダイバーの頭の後ろに配置したのが特徴でした。アクアラングは圧縮空気をダイバーが呼吸できる圧力に調整することが可能であったため、初めてダイバーは地上の供給装置に繋がれることなく、水中を自由に泳ぐことができるようになりました。


現代のレギュレーターの誕生(1950年代)

1951年、E.R.クロスは「スポーツ・ダイバー」を開発しました。これが最初のモダンな二段階式シングルホースレギュレーターであると言われていますが、ほぼ同時期にオーストラリアでテッド・エルドレッドが「ポーパス」と呼ばれる似たようなシステムを開発しています。どちらがシングルホースレギュレーターの発明者であるかについては、現在でも議論が続いています。

多くの企業が独自にシングルホースのスクーバ・レギュレーターを製造し始めました。1958年、サム・ルコックはスポーツウェイズ社と提携して「ウォーターラング」を作り、これが初めて大衆に普及したシングルホースレギュレーターとなりました。

同年、シェルウッド・マニュファクチャリング社のエンジニアたちは、ピストン式レギュレーターを水中用に改良しました。これにより、他のメーカーもこのデザインを採用しました。


現代のレギュレーター

現在のスクーバ・レギュレーターは、素材やサイズにおいてメーカーごとに違いがありますが、その基本的なメカニズムは60年前のモデルと驚くほど似ています。軽量化や耐久性の向上といった進化を遂げた一方で、初期の設計がいかに優れていたかを物語っています。

ダイバーが水中で自由に呼吸し、探検できるのは、こうした長い歴史の積み重ねと多くの発明家たちの努力があったからこそです。彼らの夢と情熱に感謝しつつ、これからのさらなる革新に期待しましょう。

Share This