「海を未来へつなげていきたい。」そう語るのは、PADIマスター・インストラクターであり、PADIフリーダイバー・インストラクター、Green Fins Assessor(評価者)、そして水中カメラマンとしても活動する坪根雄大さん。沖縄・宮古島でインストラクター兼水中ガイドとして8年間、その後は沖縄本島に拠点を移し、店舗マネージャーとして7年間ダイバー育成とショップ運営に携わってきました。現場で培った経験と発信力を活かし、現在はプロダイバー向けの指導をはじめ、水中撮影や広告制作、マーケティング支援など多岐にわたって活躍。さらにGreen Fins Assessorとして、恩納村を中心に環境に配慮したサステナブルなダイビングの実現にも尽力されています。日本の海を世界に誇れる場所へ──その思いを胸に、観光業界とダイビング業界の持続可能な未来を切り拓こうと歩み続ける坪根さんに、お話を伺いました。


Green Finsとは?

Green Finsは、国連環境計画(UNEP)とイギリスのリーフワールド財団が2004年から実施している海洋環境保全の取り組みです。観光によるサンゴ礁への負荷を最小限に抑えるために、環境に配慮した15の行動規範を定め、持続可能なダイビング・シュノーケリング産業を支援しています。これは海洋観光における唯一の国際的な環境基準と評価システムです。Green Finsの印刷物などのツールは誰でも無料でダウンロードして使用することができ、日本語、英語、中国語、韓国語など、多言語で用意されています。

僕は、その中で「Assessor(評価者)」として活動しています。自治体や政府機関がGreen Finsを導入する際に、現地に赴いて事業者のアセスメントやトレーニングを行うのが主な役割です。PADIでいうと、IE(インストラクター試験)のエグザミナーのような立場です。

実際のツアーに同行して、お客様と一緒に海に入りながら行動を観察し、環境配慮の実践状況を評価していきます。ただ、評価されていると意識させないように、できる限り自然にその場にいることを意識しています。

画像提供:坪根雄大

環境保全が後回しになる現場のリアル

現場に入って実感するのは、環境保全に時間や人を割く余裕がないという現実です。人材不足や仕入れコストの上昇など、事業を運営する上での課題が多くある中で、環境対策はどうしても後回しになりがちです。

また、「環境に配慮したサービス」が欧米ではツーリズムの選定基準として広く認知されている一方で、日本やアジア圏ではその価値がまだ十分に伝わっていないと感じています。


1%の変化が、未来を動かす

それでも、僕は“きっかけ”があれば変化は起こると信じています。もし、スタッフやゲストの中にたった1人でも環境保全に興味を持つ人がいたら、その人を全力で応援したい。100人の中の1人でもいい。その“1%”から始めた取り組みが、やがて大きなムーブメントへとつながっていく──そう信じて活動を続けています。

実際、これまで3年間でアセスメントを担当した多くの事業者が、Green Finsのスコアを改善させています。専任スタッフを配置したり、環境教育を社内研修に取り入れたりと、少しずつでも確実に意識と行動が変わってきています。

「ツアーに参加したお客様が環境保全の取り組みに感動してくれた。」これは、アセスメントを担当した事業者様にいただいた一言です。事業者様を通して、より多くの人に環境教育が伝わっていることを実感した瞬間でした。

画像提供:坪根雄大

写真が伝える“変化の記録”

カメラマンとしても活動する中で、僕が最も大切にしているのは、「変化を記録すること」です。サンゴが美しかった頃、白化が始まったとき、そして完全に姿を消してしまった後の景色──その一つひとつを、写真や映像として“見えるかたち”で残していくことで、人の心に届く何かがあると信じています。もちろんサンゴだけでなく、そこに生きる魚たちや、マンタ、サメなど象徴的な生き物たちの変化も同様です。そうした自然の移り変わりを、できるだけリアルに、できるだけ多くの人に伝えたいと思っています。

空撮や没入感のある映像など、技術を駆使した表現も大切ですが、やはり一番インパクトがあるのは「実際に見ること」。だからこそ、体験としてのダイビングの力を信じています。

アセスメントや事業者支援といった立場とは別に、自分自身が“発信者”としてできること──記録を通じて、気づきのきっかけを届けたい。それが僕にできるもう一つの海の守り方です。

画像提供:坪根雄大

次なる挑戦──Green Finsをもっと広げたい

現在、Green Finsを実際に運用している地域は、沖縄県恩納村だけです。けれど、八重山諸島、宮古列島、慶良間諸島、奄美群島、屋久島など、日本には世界に誇れるサンゴ礁があります。僕は、そういった地域にもGreen Finsを導入し、観光と環境保全を両立させる拠点を増やしていきたいと考えています。フィリピンやマレーシア、エジプトのように、サステナブルな観光が“当たり前”になる未来を目指しています。また、個人的な目標としては、国際的な保護目標「30by30(2030年までに海の30%を保護区域に)」の達成に関わっていきたいという想いがあります。そのためには、国立・国定公園の海域保護区の拡大だけでなく、地域の漁協や漁業者との対話も不可欠です。僕は今、小さな一歩かもしれませんが、そうした地域とのつながりづくりを始めています。


すべての役割に通じる想いは、「海を未来へつなぐこと」

ダイビング・インストラクターとして、人にスキルを教え、海を安全に楽しむ方法とその魅力を伝える。
Green Fins Assessorとして、事業者とともに持続可能なダイビングを実現する。
そして、カメラマンとして、海の変化を記録し、その声なき声を社会に届ける。

活動のフィールドは広がりましたが、僕の中で根底にある想いはひとつです。“この海を、未来につなげていきたい。”

そのために、できることを一つずつ積み重ねていく。それが僕にとっての「プロフェッショナル」であり、「ダイバーであること」の意味だと思っています。

画像提供:坪根雄大

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