こんにちは!「水中ゴミ拾い専門店Dr.blue」代表 / PADI AmbassaDiverの東真七水(アズママナミ)です。

私は沖縄本島を拠点に、スキューバダイビングと環境保全を掛け合わせた「水中ゴミ拾い」を、レジャーとして、学びとして、仕事として成立させるため、取り組んでいます。
今回のコラムでは、これまでの成功と課題、そしてこれからについてお伝えします。
海中ごみ拾い活動の成功と課題
モットーは、「一人の百歩より百人の一歩」
活動当初から大切にしている言葉です。一人が百歩進むより、百人が一歩ずつ進むほうが社会の変化は大きくなります。ここで言う「百人」には、環境に詳しい人も、あまり関心がない人も、海が好きな人も苦手な人も、そして時にポイ捨てをしてしまう人さえ含まれます。だからこそ、環境活動は正しさだけでは広がりにくいと痛感してきました。どうすれば「やってみたい」と思える距離感に整え、最初の一歩を軽やかに踏み出してもらえるか、それが私の最初の、そして今も続く大きな課題でした。

課題① マイナーだった「水中ゴミ拾い」の認知度
私が活動を始めた2018年当時、「水中ゴミ拾い」という言葉は、ほとんど知られていませんでした。
ビーチクリーン等のゴミ拾いは一般的ですが、水中は海に潜らなければ見えない世界。問題があっても目に届かず、ニュースにもなりにくい。そんな伝わらないもどかしさからのスタートでした。
私はこのマイナーさを逆に武器にして、「新しいダイビングの形」として伝えることから始めました。 ゴミ拾い専用のSNSを開設し、毎回の潜水で拾ったゴミを撮影し、「海の底にはこんな現実がある」と発信を続けました。
環境活動報告というより、今日の海日記のように日々思いを綴っていたのですが、少しずつコメントや質問が増え、共感の輪が広がっていきました。海中で拾ったひとつのゴミが、写真一枚を通して誰かの心を動かします。フォロワーも、最初わずか10人からのスタートでしたが、100人、500人、1000人と徐々に増え、その過程で水中ゴミ拾い確かな可能性があると実感しました。

課題② ネガティブなイメージの払拭
「ゴミ拾い」と聞くと、清掃活動、大変そう、地味、そんなイメージが先に立ちます。
その印象を変えることが、次の壁でした。
なぜなら、私にとって水中ゴミ拾いは、どちらかといえば「宝探し」のような楽しい時間だからです。
サンゴの隙間に沈んだ空き缶を見つけた瞬間の「やった!」という達成感や、重たい漁網を引き上げた時の高揚感。
様々なポジティブな感情で満たされるのです。
だからこそ、私が心がけてきたのは、その感情を丁寧に分解し、わかりやすい言葉で伝えることです。
とはいえ、この感覚は体験しないと伝わりにくいため、発信には工夫が必要です。
見る人が、「大変」「えらいね」ではなく「一緒にやってみたい」と感じられるように、
美しい海の景色や、ゴミを見つけたときの小さな喜びを描き出したり、
海で見つけた珍しいゴミを紹介する「レアゴミ速報」など、ユーモアを交えながら発信する工夫も続けました。
小さな気づきや驚きが積み重なると、人の意識は「ゴミ拾い=楽しそう」に変わっていきます。

課題③「楽しいゴミ拾い」の深掘り
上記のような楽しさは十分ありますが、
水中ゴミ拾いを「やってみたい」と思ってもらうためには、ファンダイビングとのさらなる差別化が必要だと感じました。
水中ゴミ拾いは、良い意味で少し難易度が高いダイビングです。
だからこそ、個人で潜って拾うよりも、仲間と協力して回収する方が効率的で、自然とコミュニケーションが生まれます。
そのチームでの達成感こそが、他のダイビングにはない魅力です。
また私は、ゴミ拾いに「付加価値」を重ねることを大切にしています。
例えば、その日拾った海中ゴミを素材にしたアップサイクル・キーホルダーづくり。
海の中でゴミを拾いながら「どんな作品にしようかな」と想像する時間は、とてもワクワクします。
その瞬間、参加者の中でゴミは大切な素材に変わり、その日の思い出が形として残せる、自分へのお土産になります。
この取り組みをきっかけに、「アクセサリーを作ってみたい」「作品づくりに興味がある」といった声も増え、女性ダイバーの参加が増加しました。
「楽しいゴミ拾い」とは、決して軽い意味ではありません。
それは「楽しむことをきっかけに、行動が生まれる」という、非常に大切なことです。

Dr.blueの挑戦 〜 掛け算で広がる海の未来 〜

Dr.blueの活動の鍵は、「掛け算」の発想にあります。
「ゴミ拾い=ボランティア」と思われがちな中で、私は「ゴミ拾い×〇〇」で新しい価値を生み出すことを意識しています。
そもそも水中ゴミ拾い自体が、「スキューバダイビング×ゴミ拾い」という掛け算から生まれたもの。
うした「掛け算のゴミ拾い」は、形を変えながら全国でも広がっています。
ジョギング×ゴミ拾い=プロギング、ダンス×ゴミ拾い=トラッシュダンス、ヨガ×ゴミ拾い=エコヨガ…
楽しみながら続けるスタイルが次々に生まれ、行動の輪が広がっています。
入口が多いほど、人は自分の興味から環境に関わることができると、改めて感じます。
もう一つ、非常に大切なことが発信です。
活動当初から、私は現場での出来事や気づきをSNSでひたすら発信してきました。
そうして少しずつフォロワーが増え、参加者が増え、メディア出演や企業コラボの機会も広がっていきました。
なかでも最近人気の「水中ゴミ拾いアップサイクルコース」も、始めた当初(昨年3月)は予約がほとんどなく、苦戦の連続でした。
それでも、私の中ではアップサイクルをすることでゴミ拾いが倍楽しくなるという確信があり、ひたすら発信を続けました。
ゴミを可愛く撮影したり、作品づくりの楽しさを工夫しながら伝えていくうちに発信し続けるうちに、少しずつ共感の声が届き始めました。
その結果、水中ゴミ拾い×アップサイクルコースの参加者が増え、リピート率も非常に高く、現在ではお申し込み件数が昨年の約5倍です。
発信を重ねることで、点は線となり、共感の輪が広がっていきました。
その先には就労支援B型事業所と連携し、デザインを障がい者の方にお願いして販売するという新たな展開も生まれました。
また、水中ゴミ拾いを省いたアップサイクルワークショップ単体でも人気を集め、
海中ゴミ問題についてプレゼンテーション形式で伝えながら、ノンダイバーが“海を思いながら作品をつくる、貴重なコンテンツにもなっています。


まとめ
〜 「一人の百歩より百人の一歩」を目指して 〜
環境問題に正解はありません。
だからこそ、考え続け、行動し続けることそのものが「正解」だと思っています。
Dr.blueでは、正しさよりも楽しさを軸に、「やらせる」ではなく「やってみたい」を生む仕組みをデザインしてきました。
拾う、洗う、つくる、伝える、その一連の掛け算の中に、未来を変える力があると信じています。
また、「ゴミ拾いする人に悪い人はいない!」という思いから、ゴミ拾い×街コン=「ゴミ拾い街コン」や、ゴミ拾い×BBQ=「ゴミ拾いBBQ交流会」など、さまざまな掛け算イベントにも挑戦してきました。

今後も固定観念にとらわれず、自由な発想でゴミ拾いを進化させていきたいです。
楽しむことが罪ではなく、行動の入り口になるような仕組みを、これからも磨いていきたいと思います。