ダイビングを長く楽しんでいるなら、現実の方がSFの世界よりずっと奇妙だと気づいているはずでしょう。宇宙からのエイリアン?そんなもの要りません。本当に奇妙なものは、海にこそ存在するのです。深海は奇妙な海洋生物の宝庫として有名ですが、あなたの馴染みのダイブリゾートの裏にあるハウスリーフでさえ、奇妙な生物がうようよしています。見つけ方を知っていればの話ですが!

次のダイビングやスノーケリングで注目すべき、7種の奇妙な海洋生物とその見つけ方を紹介します。

1.カミソリウオ(ゴーストパイプフィッシュ/Solenostomus paradoxus)

海藻そっくりに擬態するリーフィー・シードラゴンは有名ですが、サンゴになりきる魚がいることをご存じでしょうか。それが、カミソリウオです。
タツノオトシゴやヨウジウオ(パイプフィッシュ)の仲間らしく、この魚も少し風変わり。 しかし何より特筆すべきは、その徹底した擬態力。枝分かれしたサンゴに溶け込む姿は、もはや現実離れした完成度で、SFの世界に迷い込んだかのよう。
見つけるのは至難の業。多くの場合、逆さまのまま微動だにせず、周囲のサンゴと完全に同化しています。経験豊富なダイブガイドの目を借りて、ようやく出会える存在です。

見られる場所: 熱帯のインド太平洋。“擬態の達人”なので、水中ガイドにひと言お願いするのが近道です。


2.キンチャクガニ(ポンポンクラブ/Lybia sp.)

太平洋のサンゴ礁では、キンチャクガニと呼ばれる小さなカニに出会うことがあります。
大きさはわずか2.5センチほど。ひ弱で臆病そうに見えますが、その印象はすぐに覆されます。
このカニは、イソギンチャクのかけらを“拝借”し、それをハサミに持ちます。 まるでポンポンのように振りかざしながら、毒のあるイソギンチャクを武器兼パートナーとして使うのです。イソギンチャクは餌にありつき、カニは身を守る。静かな共存関係が、そこにはあります。
うっかり近づくと、小さくても侮れない一撃が飛んできます。相手が魚であれ、人であれ、好奇心が過ぎれば“チクッ”とした反撃が待っています。

見られる場所:特に東南アジアのサンゴのがれきが広がるダイビング・ポイント。目を凝らして探してみてください。


3.バロニア(バブルアルジー/Valonia ventricosa)

「泡藻(あわも)」としてより広く知られていますが、それでも「船乗りの眼球(セーラーズ・アイボール)」という呼び名のほうが、どこか心に残ります。艶やかで、完璧な球体。深いエメラルドグリーンに輝くその姿は、まるで誰かがサンゴ礁に色の違うガラスの義眼を落としていったかのようです。
けれど、この不思議さは見た目だけではありません。 熱帯から亜熱帯の海に広く分布するこの藻は、実は世界最大級の「単細胞生物」。ビー玉ほどの大きさまで育ちながら、中身はたったひとつの細胞だけ。そう聞くと、少し価値観が揺さぶられます。

見られる場所:熱帯・亜熱帯の海なら、ほぼ世界中。 ダイビング中、サンゴのがれきの中に不自然な緑の輝きを見つけたら、それが目印です。


4.ミナミハコフグ(イエローボックスフィッシュ/Ostracion cubicus)

ハコフグ科には、数えきれないほどの“変わり者”がいます。ハコフグ、ラクダハコフグ、角の生えたカウフィッシュまで。その中でも、車のデザインのモデルにまでなった魚は、ただ一種。このミナミハコフグです。
2005年、メルセデス・ベンツはこの魚に着想を得たコンセプトカー「バイオニック」を発表しました。
箱のように硬い体と、しなやかなヒレ。まるで宙に浮くように泳ぐ姿が、空力性能のヒントになる——そう考えられたのです。
結果はさておき、「魚は魚のままが一番」ということだけは、はっきりしました。
幸いにも、ぐるぐる動く大きな目や、皮膚に含まれる強力な毒までは再現されませんでした。
参考:メルセデスベンツの『ハコフグ』—低燃費&低エミッション

見られる場所:黄色に水玉模様の幼魚は、エダサンゴの間で身を守りながら暮らします。 やがて青く大きく成長すると、相変わらず不思議な姿のまま、自由に泳ぎ回るようになります。


5.カリビアン・リーフ・スクイッド(Sepioteuthis sepioidea)

魚の群れ? ……いや、コウイカ? ちがう。
正解は、カリブのコウイカ、カリビアン・リーフ・スクイッドです。

このイカは、私たちが思い描く「イカ像」をことごとく裏切ってきます。 深場でも夜の海でもなく、彼らの舞台は浅瀬。メキシコ湾からカリブ海の明るい海で、昼間から活発に活動します。
10匹ほどの小さな群れで行動し、遠目には少し変わった魚の集団に見えることも。 近づくと、円盤のような目、顔の触腕、そして虹色にきらめく銅色の体が、その正体をそっと明かします。
彼らは触腕の動きだけでなく、体の色や模様、質感までも瞬時に変化させて仲間と意思疎通を行ないます。体の左右で異なるメッセージを同時に送ることも可能です。言葉を持たない代わりに、光と色で会話する高度なコミュニケーション手段を持ったイカなのです。

見られる場所: カリブ海の浅瀬。船の下など、波から守られた静かな場所に、ひっそりと集まっています。


6.フリソデエビ(ハーレクインシュリンプ/Hymenocera picta)

マクロ派ダイバーにとって、これ以上ない被写体。 フリソデエビは、サンゴ礁に咲く蘭の花のような姿をしています。けれど、その美しさに油断してはいけません。
このエビは、ヒトデを専門に狩る冷静な捕食者。 硬い皮膚を突き破るための鋭いトゲを持ち、迷いなく獲物に挑みます。
ヒトデに近づくと、まずは裏返して動きを封じる。
オニヒトデのような“厄介者”も例外ではありません。 その後、ヒトデは生きたまま、数週間かけて脚を少しずつ食べられていきます。美と残酷さが同居する光景は、まるでサバンナの捕食劇のようです。
英名の「ハーレクイン」と言う名前からロマンス小説の代名詞のような優雅さを感じるかもしれませんが、もうひとつの意味である「道化師」のエビのほうがしっくりくるかもしれません。

見られる場所:インド太平洋の穏やかなサンゴ礁。東南アジアでのマクロダイブが、出会いの近道です。日本では静岡県以南の太平洋で見ることができます。


7.オニイトマキエイ(ジャイアント・オーシャニック・マンタ/Mobula birostris)

SFの世界の目線から見れば、これはまさに“母船”の到着です。 オニイトマキエイと目が合った瞬間、言葉を失い、その感動から涙ぐむダイバーがいるのも不思議ではありません。あまりにも穏やかで、静かで、そして圧倒的に別次元の存在だからです。
翼を広げれば7メートルを超える巨体。 顔の前に突き出た2本の頭部ヒレ、不思議な従者のようにつきまとうコバンザメ、そしてプランクトンを吸い込む巨大な口。 これ以上“異形”で、それでいて美しい生きものがいるでしょうか。答えは、たぶん「ない」です。

見られる場所:世界各地のマンタスポット。一年を通して、どこかの海で“母船”は待っています。


不思議な海の住人たちに出会うために

事実は、ときに物語よりも奇妙です。そして美しい。とりわけ、水中の世界では。
水面下には、まるでSFのような、いや、それを超える光景が、静かに広がっています。 これから海を知りたいなら、PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースという入口があります。すでにダイバーなら、どこかに旅に出るだけでよいでしょう。
どの海を選んでも、あなたはこの青い惑星を住処とする、不思議な生きものたちと同じ時間を共有することになります。
ひとつだけ、大切な約束を忘れずに。

―― 見るだけで、触れないこと ――

それが海を守ることにつながるのと同時に、自分が刺されたり痛い思いをしたりせずに済む方法でもあります。



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