耳抜きをしながら潜降したり、サンゴ礁の上をふわりと漂ったり、水深が深くなるにつれて海の色が変わって見えたり――。ダイビング中に当たり前のように体験しているこれらの現象には、実はすべて理由があります。そして、その理由を説明してくれるのが「物理学」です。

「物理学」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、ダイバーにとっては決して特別なものではありません。私たちは毎回のダイビングで、水圧や浮力、気体の性質といった物理の法則を体験しています。

例えば、

  • なぜ耳抜きが必要なの?
  • なぜ深く潜るほど空気の消費が早くなるの?
  • 中性浮力ってどういう状態?
  • なぜ減圧症が起こるの?
  • 安全停止にはどんな意味があるの?

こうした疑問の答えを知ることで、ダイビングの理解が深まり、スキルアップや安全管理にも役立ちます。そして何より、水中で起きていることが分かると、ダイビングはもっと面白くなります。

この記事では、ダイバーなら知っておきたい水中の物理学を、できるだけわかりやすく解説していきます。次のダイビングで「なるほど!」と思える発見がきっとあるはずです。


PADI Open Water Diver students learn how pressure affects the body underwater and why there is a need for equalizing ears

ダイビング物理学①:圧力

ダイビングの物理学を語るうえで、ほぼすべての現象に関わってくるのが「圧力(水圧)」です。海では深く潜るほど、体にかかる圧力が大きくなります。海面では、大気による圧力がかかっており、これを1気圧(ATAまたはbar)と呼びます。そして水中では、10m潜るごとに約1気圧ずつ圧力が増加します。

例えば、

  • 水面:1 ATA(大気圧のみ)
  • 水深10m:2 ATA(大気圧1 ATA+水圧1 ATA)
  • 水深20m:3 ATA(大気圧1 ATA+水圧2 ATA)
  • 水深30m:4 ATA(大気圧1 ATA+水圧3 ATA)

となります。

例えば、潜降時に耳抜きが必要になる、水深によってBCD内の空気量が変化する、深く潜るほど空気の消費が早くなるといった現象は、すべて圧力の変化によって引き起こされています。


A diver breathing out while ascending, which is because of Boyle's Law underwater, one of many gas laws used in scuba diving

ダイビング物理学②:ボイルの法則

ボイルの法則とは、「温度が一定のとき、気体の体積は圧力に反比例する」という法則です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、ダイバーにとっては非常に身近な法則です。なぜなら、水中では深く潜るほど圧力が増し、空気の体積が小さくなるからです。例えば、水面で膨らませた風船を水中に持っていくと、深くなるにつれて風船は小さくなります。

水深圧力空気の体積
10m / 33ft2 ATA水面の約1/2
20m / 66ft3 ATA水面の約1/3
30m / 99ft4 ATA水面の約1/4

つまり、圧力が2倍になれば体積は半分、圧力が4倍になれば体積は4分の1になるのです。ダイバーが日常的に行っていることの多くは、このボイルの法則と深く関係しています。

ボイルの法則が関係するダイビングスキル:

  • 耳抜きやマスククリアを行う
    潜降すると耳やマスク内の空気は圧縮されます。そのままでは不快感や痛みが生じるため、耳抜きをしたり、マスク内に少量の空気を送り込んだりして圧力を調整します。
  • ウエットスーツドライスーツが圧縮される
    スーツ内の気泡も圧縮されるため、深く潜るほどスーツは薄くなり、保温性や浮力が変化します。
  • BCDへの給気・排気が必要になる
    潜降するとBCD内の空気も小さくなり浮力が減少します。そのため空気を追加します。逆に浮上すると空気が膨張するため、排気して浮力をコントロールします。
  • 深いほど空気の消費が早くなる
    深度が増すほど呼吸する空気も圧縮された状態になるため、1回の呼吸で使用する空気量が増えます。

浮上すると周囲の圧力は低くなり、肺の中の空気は膨張します。もし息を止めたまま浮上すると、膨張した空気が逃げ場を失い、肺に重大な損傷を与える可能性があります。そのため、スクーバダイビングでは「呼吸を止めない」ことが基本中の基本なのです。

関連コースPADI ディープ・ダイバー・スペシャルティ・コースでは、深度による圧力変化がダイバーや器材にどのような影響を与えるのかを実践的に学びます。


Two PADI Peak Performance Buoyancy students practice hovering underwater by understanding buoyancy in scuba diving

ダイビング物理学③:アルキメデスの原理

アルキメデスの原理とは、「水中にある物体には、その物体が押しのけた水の重さと同じだけの上向きの力(浮力)が働く」という法則です。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、ダイバーなら誰もがその恩恵を受けています。例えば、水中でまるで無重力のように浮かび、サンゴ礁の上をふわりと漂う「中性浮力」。あの美しいホバリングは魔法ではなく、アルキメデスの原理によって説明することができます。

アルキメデスの原理とボイルの法則を組み合わせて考えると、ダイビング中の浮力の変化を理解することができます。これが、ダイバーが常に浮力調整を行う理由です。中性浮力は感覚だけで維持しているように見えますが、実際には水圧と浮力の変化に合わせて細かく調整しているのです。

潜降すると浮上すると
圧力が増加する
BCDやウエットスーツ内の空気が圧縮される
押しのける水の量が減る
より沈みやすい状態(負の浮力)になる
圧力が減少する
空気が膨張する
押しのける水の量が増える
より浮きやすい状態(正の浮力)になる

さらに、海水は淡水よりも密度が高いため、より大きな浮力が生まれます。そのため、同じダイバーでも湖や川などの淡水で潜る場合と比べて、海で潜るときは通常より多くのウエイトが必要になります。

関連コース:PADI ピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー(PPB)スペシャルティ・コースでは、適切なウエイト量の調整方法をはじめ、トリムや呼吸による浮力コントロールなどを実践的に学びます。浮力コントロールが身につくと、中性浮力を維持することがより自然にできるようになり、空気消費の改善や安全性の向上、さらにはサンゴ礁や海洋生物への環境負荷の軽減にもつながります。


A diver analyzing their tank contents on an Enriched Air Nitrox Diver course, which includes some scuba diving physics laws

ダイビング物理学④:ダルトンの法則

ダルトンの法則とは、「混合気体の全圧は、それぞれの気体が持つ分圧(部分圧)の合計に等しい」という法則です。私たちが普段呼吸している空気は、おおよそ酸素:約21%、窒素:約79%で構成されています。ダイビングで深く潜っても、この割合自体は変わりません。しかし、水深が深くなり周囲の圧力が増加すると、それぞれの気体の分圧は高くなります。分圧とは、混合気体の中に含まれるそれぞれの気体が単独で発揮している圧力のことです。

水面では周囲の圧力は1 ATAなので、

  • 酸素の分圧:0.21 ATA
  • 窒素の分圧:0.79 ATA

となります。つまり、水面で呼吸しているとき、私たちの体は「1 ATAの空気」を吸っていますが、その内訳として酸素は0.21 ATA分、窒素は0.79 ATA分の圧力で体に作用しているのです。

さらに水深20mまで潜ると、周囲の圧力は3 ATAになりますが、空気中の割合は変わらないため、

  • 酸素の分圧:0.21 × 3 = 0.63 ATA
  • 窒素の分圧:0.79 × 3 = 2.37 ATA

となります。

深く潜るほど酸素や窒素そのものの割合は変わらなくても、深度が深くなるにつれて気体の分圧も高くなるため、呼吸ガス(通常の空気を含む)が体に予期しない影響を及ぼすことがあります。

例えば、酸素は私たちの生命維持に欠かせない気体ですが、分圧が高くなりすぎると酸素中毒を引き起こす可能性があります。そのため、通常の空気で必要以上に深く潜る、エンリッチド・エア(ナイトロックス)の最大運用深度を超えて潜るといった行為は危険を伴います。

ダイバーが深度制限を守るのは、単にルールだからではなく、酸素や窒素の分圧が人体に与える影響を考慮しているためなのです。

関連コースPADIエンリッチドエア・スペシャルティ・コースでは、酸素濃度の高い呼吸ガスを使用するメリットや、酸素分圧の考え方、最大運用深度(MOD)の計算方法などを学びます。これらの知識を身につけることで、エンリッチド・エアを安全かつ効果的に活用し、より長く快適なダイビングを楽しめるようになります。


Three divers complete a safety stop to avoid decompression sickness because of Henry's Law and the physics of scuba diving

ダイビング物理学⑤:ヘンリーの法則

ヘンリーの法則とは、「液体に溶け込む気体の量は、その気体にかかる圧力に比例する」という法則です。

ヘンリーの法則は、炭酸飲料を思い浮かべると分かりやすいでしょう。炭酸飲料のボトルの中では、高い圧力によって二酸化炭素が液体に溶け込んでいます。ゆっくりフタを開ければ問題ありませんが、一気に圧力が下がると、溶け込んでいたガスが大量の泡となって現れます。

ダイバーの体内でも、これと似たことが起こっています。ダイビング中は周囲の圧力が高くなるため、呼吸している空気に含まれる窒素が体内の組織へ徐々に溶け込んでいきます。そして浮上すると圧力が低下し、体内に溶け込んでいた窒素は体外へ排出されようとします。

通常は呼吸によってゆっくり排出されますが、浮上速度が速すぎたり、長時間深く潜りすぎること、また体内に過剰な窒素が蓄積しているといった場合には、窒素が泡(気泡)となって体内に発生することがあります。これが減圧症の原因です。

一般的に水深5m付近で3分間で行う安全停止は、体内に溶け込んだ窒素を安全に排出するための時間です。また、ダイブコンピューターやダイブテーブルで管理されている無減圧限界(NDL)、浮上速度、水面休息時間(サーフェスインターバル)、飛行機搭乗までの待機時間なども、すべてヘンリーの法則をもとに考えられています。

関連コースPADIレスキュー・ダイバー・コースでは、減圧理論に関する知識を深め、スキューバダイビングによって引き起こされる体調不良への対処法を学びます。


A drysuit diver jumps into cold water from a boat and they will notice their SPG reading drop slightly due to scuba gas laws

ダイビング物理学⑥:シャルルの法則とジュール・トムソン効果

これまで紹介してきた法則は主にダイバーの体に関係するものでしたが、シャルルの法則とジュール・トムソン効果は、ダイビング器材の仕組みを理解するうえで重要な考え方です。シャルルの法則とは、「気体は温度が下がると体積や圧力が小さくなり、温度が上がると大きくなる」という法則です。

ダイバーにとって身近な例が、シリンダーの残圧です。例えば、陸上でシリンダーを充填した後、水温の低い海へ入るとシリンダー内部の空気が冷やされます。その結果、内部の圧力もわずかに低下します。「エントリーしたら残圧計の数値が少し下がった」という経験がある方は、シャルルの法則を体験しているのかもしれません。

一方で、ジュール・トムソン効果とは、「高圧の気体が急激に膨張すると温度が下がる現象」を指します。スクーバダイビングでは、シリンダー内の高圧空気がレギュレーターを通る際に大幅に減圧されます。このとき空気は急激に冷却されるため、レギュレーター内部の温度も下がります。

特に冷水環境では、レギュレーター内部に氷が発生する、バルブが正常に閉じなくなる、フリーフロー(空気が止まらなくなる現象)が発生するといったトラブルにつながることがあります。そのため、寒冷地や冷水域で潜る際には、低温環境に対応したレギュレーターを使用することが重要です。

関連コースPADI器材スペシャリストコースでは、レギュレーターやBCD、シリンダーなどの器材の仕組みやメンテナンスについて学ぶことができます。器材がどのように機能しているのかを理解することで、トラブルの予防や適切な器材管理につながり、より安全で快適なダイビングを楽しめるようになるでしょう。


An underwater photographer uses strobes to bring back colors that disappear because of physics in diving and refraction

ダイビング物理学⑦:光・音・熱

水中では、圧力だけでなく光や音、熱の伝わり方も陸上とは大きく異なります。そのため、ダイバーが水中で見たり聞いたり感じたりする世界は、実際とは少し違っているのです。

ダイビング中に「思ったより魚が大きかった!」と感じたことはありませんか?これは光の屈折によるものです。マスクのレンズを通して水中を見ると、光が屈折することで物体は実際よりも約25%近く、約33%大きく見えます。そのため、水中写真を撮るときには「もっと近づこう」と言われることがよくあります。自分では近いと思っていても、実際には思ったより離れていることが多いからです。

また、水中でボートのエンジン音や仲間のタンクを叩く音が聞こえても、「どこから聞こえているのか分からない」と感じた経験はないでしょうか。これは、水中では音が空気中よりも約4倍速く伝わるためです。人間は左右の耳に届く音のわずかな時間差を利用して音源の方向を判断しています。しかし、水中では音が非常に速く伝わるため、その時間差が小さくなり、方向や距離を正確に判断しにくくなります。

水中では体温が奪われやすい

さらに、水は空気よりも熱を伝えやすいため、私たちの体温は陸上よりも速いスピードで失われます。

「水温は暖かいはずなのに、長時間潜ると寒く感じる」というのはこのためです。

ウエットスーツやドライスーツは単に濡れないための装備ではなく、体温の低下を防ぎ、快適かつ安全に潜るための重要な役割を担っています。
なぜ水中では青く見えるの?

水中で周囲が青っぽく見えたり、赤や黄色の魚が思ったより地味な色に見えたりした経験はありませんか?これは、水が光を吸収する性質を持っているためです。太陽光にはさまざまな色の光が含まれていますが、水中では深くなるにつれて色ごとに吸収されていきます。特に赤色は最も早く吸収され、水深約5m前後で失われ始めます。そのため、水中では周囲が青く見えたり、赤いサンゴや魚が茶色や灰色っぽく見えたりするのです。

PADIデジタル水中フォトグラファーでは、水中で色彩豊かな写真を撮影するためのテクニックや、光の特性を活かした撮影方法について学ぶことができます。

なぜ水中では寒く感じるの?

一般的に、水は空気の約20倍以上の速さで熱を伝えるといわれています。実は、水は空気よりもはるかに効率よく熱を伝えるため、私たちの体温をどんどん奪っていきます。ダイバーが着用するウエットスーツやドライスーツは、皮膚を保護するためだけでなく、体温の低下を防ぐための重要な安全装備でもあります。これもまた、水中ならではの物理学が生み出す現象なのです。


A couple using a mobile tablet to study PADI Dive Theory, including how scuba regulators work and nitrogen narcosis causes

さらにダイビング理論を学んでみよう

今回ご紹介したダイビング物理学は、私たちが水中で体験する現象のほんの一部です。ダイビングの仕組みを理解すると、安全性が向上するだけでなく、水中で起きていることをより深く理解できるようになり、ダイビングそのものがもっと面白くなります。

将来インストラクターやダイブマスターを目指している方はもちろん、「ダイビングの理論をもっと知りたい」という方にもおすすめなのが、ダイブセオリーです。このコースでは、ダイビング物理学、ダイビング生理学、ダイビング器材、減圧理論、ダイブプランニングなどを体系的に学ぶことができます。


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