スキューバダイビングをこれから始める方でも、「減圧症」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。英語では “decompression sickness(DCS)” と呼ばれ、ダイビングにおいて注意すべき重要な体のトラブルのひとつです。では、ダイビングにおける減圧症とは一体どのようなものなのでしょうか?
この記事では、以下のような疑問にお答えしていきます:
- 減圧症はなぜ起こるの?
- ダイビングをしなくても減圧症になるの?
- どのくらいの深さで減圧症になるの?
- 減圧症の症状とは?
- 減圧症の治療方法は?
- 減圧症は予防できるの?
- そもそもスキューバダイビングは安全なの?
本文中のリンクには、英語のリファレンスも含まれます。

減圧症はなぜ起こるの?
スキューバダイビング中、私たちの体は呼吸している空気に含まれる窒素を体内に取り込んでいます。そして、水深が深くなるほど(水圧が高くなるほど)、より多くの窒素が体に溶け込んでいきます。通常、この窒素はゆっくりと浮上することで、体に影響を与えることなく自然に排出されます。しかし、急浮上などによって水圧が急激に下がると問題が起こります。体内に溶けていた窒素が、一気に「気泡」となって血液や組織の中に現れてしまうーこれが減圧症の原因です。
「減圧症ってどういうこと?」とまだイメージしにくい方は、炭酸飲料を思い浮かべてみてください。炭酸飲料の中には二酸化炭素が溶け込んでいますが、フタを開けると圧力が一気に変化して、シュワシュワと泡が発生しますよね。ダイビングでも同じように、体に溶け込んでいた窒素が急激な圧力の変化によって気泡となって現れます。そして、この気泡が体にさまざまな影響を及ぼす状態が「減圧症」です。

ダイビングをしなくても減圧症になるの?
減圧症はスキューバダイビングと関連づけて考えられることが多いですが、実はそれだけではありません。周囲の圧力が急激に下がる状況であれば、水中に限らず発生する可能性があります。
例えば、以下のようなケースでも起こり得ます:
つまり、減圧症は「圧力の変化」によって起こるものであり、水中だけの問題ではないのです。
なぜフリーダイバーは減圧症になりにくいの?
フリーダイビングでは、水中で呼吸をせずに息を止めて潜るため、体内に取り込まれる窒素の量が非常に少なくなります。そのため、たとえ速く浮上したとしても、減圧症を引き起こすほどの窒素が体に溜まることは通常ありません。ただし、「絶対に起こらない」というわけではありません。深い潜水を繰り返す場合などには、まれにフリーダイバーでも減圧症を発症するケースが報告されています。

どのくらいの深さで減圧症になるの?
「何メートル以上潜ると減圧症になるの?」と思う方も多いですが、実は“この深さなら必ずなる”という明確な基準はありません。ただし、基本的には深く潜るほど体に取り込まれる窒素の量が増え、リスクも高くなると考えられています。そのためダイビングでは、ダイブテーブルやダイブコンピューターといった計画ツールを使いながら、安全に潜れる深さや時間を管理することがとても重要です。こうした知識や使い方は、PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースでもしっかり学ぶことができます。
減圧症のリスクにおいて特に重要なのが、浮上の仕方です。実は、水中で最も大きな圧力変化が起こるのは水深10mから水面までの間といわれています。そのため、ダイビングの最後に急いで浮上してしまうと、体内の窒素が一気に気泡化し、減圧症のリスクが高まります。

減圧症の症状とは?
減圧症は、大きく「タイプ1(軽度)」と「タイプ2(重度)」に分けられます。ただし、実際には症状の現れ方は人によって異なり、必ずしもはっきり分類できるとは限りません。主な症状としては、以下のようなものがあります。代表的な症状には、次のようなものがありますが、これらに限られるものではありません。
- 手足のしびれやチクチクする感覚
- 関節や手足の痛み
- 筋力の低下(力が入りにくい)
- 皮膚のかゆみや発疹
- 頭痛
- 強い疲労感
- めまい・ふらつき
- 吐き気や嘔吐
- 排尿しづらくなる
- 意識の混乱や異常な行動
- 視覚や聴覚の異常
- バランス感覚や運動機能の低下
- 呼吸困難や胸の痛み
- 麻痺
- 意識消失
減圧症はダイビング後どれくらいで発症するの?
減圧症の症状は、ダイビング後すぐに現れるとは限りません。一般的には、ダイビング終了後15分〜12時間以内に症状が出ることが多いとされています。しかし、場合によっては最大で36時間後に現れることもあります。
症状を見過ごさないために
ダイバーの中には、症状があっても周囲に伝えないケースがあります。「大げさにしたくない」「周りに心配をかけたくない」といった気持ちから、つい我慢してしまうことも少なくありません。また、実際には減圧症のサインである可能性があっても、日焼けや疲れ、脱水、船酔いなどのせいだと自己判断してしまうこともあります。
もちろん、減圧症かどうかを最終的に判断できるのは医療の専門家だけですが、ダイバー自身や周囲の人が「異変に気づく力」を持っていれば、すぐに治療につなげられます。

減圧症は治るの?
適切な治療を受けることで、多くのダイバーは減圧症から完全に回復することが可能です。まず初期対応として、100%酸素を吸うことで症状の軽減や、体内の窒素の排出を助ける効果があります。ただし、一時的に症状が消えたとしても、後から再び現れることもあるため注意が必要です。そのため、少しでも異変を感じる場合は、迷わず救急要請を行い、できるだけ早く医療機関で診察を受けることがとても重要です。
減圧症の治療方法
減圧症の唯一の治療法は、「再圧治療(さいあつちりょう)」と呼ばれるものです。これは、体に再び圧力をかけることで、体内にできた気泡を小さくし、安全に窒素を排出させる治療方法です。「もう一度潜れば治るのでは?」と思うかもしれませんが、それは絶対にNGです。水中というコントロールできない環境で再び圧力をかけるのは非常に危険です。その代わりに、専用の設備である「高気圧チャンバー」を使用して、安全に治療が行われます。

減圧症を防ぐには?
減圧症は、正しい知識と行動によってリスクを大きく減らすことができます。スキューバダイビングで減圧症を防ぐためのポイントは以下の通りです。
- ゆっくり浮上する&安全停止を行う:体内の窒素を安全に排出する時間を確保する
- ダイブプランを守る:深く潜りすぎる・長く潜りすぎる・水面休息時間を取らないことはリスク増加につながる
- ダイビング後は12〜24時間、飛行機に乗らない:飛行機内の気圧低下は、急浮上と同じような影響を与えるため
- エンリッチド・エアを活用する:窒素の割合が少ないため、体に取り込まれる窒素量を減らせる
さらに意識したいポイントとして、しっかり水分補給をすること。ダイビング後すぐにアルコールの摂取や、激しい運動、熱いシャワーや入浴は血流に影響を与え、体内の窒素が急激に気泡化するリスクを高める可能性がありますので、避けましょう。

スキューバダイビングは安全なの?
スキューバダイビングは、実はとても高い安全性を持つアクティビティです。一般的には、ゴルフや乗馬、水泳などと比較しても事故発生率は低いとされています。
減圧症は100%防げるものではありませんが、正しい知識とルールを守っていれば、発症するケースは非常にまれです。その発生率は、1万回のダイビングに対して約3件程度といわれています。
だからこそ、ダイビングでは「減圧症をどう防ぐか」をしっかり学ぶことが重要です。これはすべてのレベルの講習で扱われる基本的な内容であり、安全にダイビングを楽しむための土台となります。また、万が一に備えてダイビング専用の保険に加入しておくことも大切です。
これからダイビングを始める方へ
PADIのオープン・ウォーター・ダイバー・コースでは、「減圧症とは何か?」という基礎知識から、安全にダイビングを楽しむための実践スキルまでしっかり学ぶことができます。さらに、ダイビング器材の使い方、水中でのコミュニケーション方法、海を守るための知識など、ダイバーとして大切なスキルを総合的に身につけることができます。

すでにダイバーの方へ
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