私たちの暮らしのすぐそばに広がる、日本の海。地域ごとにまったく異なる表情を持つ海があり、潜るたびに新しい発見があり、何度訪れても飽きることはありません。

日本各地の海で日々ダイバーを案内するPADIインストラクターたちは、その海ならではの魅力を誰よりも知る存在です。この連載では、そんな現地ガイドの視点から、日本の海の魅力を紐解いていきます。


ダイブベース37 西田 舞さん

私がダイビングを始めたきっかけは、会社の後輩に誘われて行ったサイパン旅行での体験ダイビングです。私はもともと富山県朝日町の宮崎(越中宮崎)という海辺の町で育ち、子供の頃から海は生活の一部でした。当時は大人がいなくても子供たちだけで「低学年は辺ノ島(へたのしま)まで、高学年になったら沖ノ島まで」といった暗黙のルールを作って、素潜りで貝を採ったりして遊んでいました。そんな海育ちの私でしたが、初めてダイビングで海の中に入った時、「こんなに楽に息ができるのか!」と猛烈に感動して、そこから一気にダイビングにのめり込みました。 当初は純粋にユーザーとして楽しんでいましたが、もともと海に関わる仕事への憧れもあり、ガイドができるダイブマスターまで取得しました。その後、主人との結婚やショップ運営を経て、「お客様に絶対に事故なく、安全に楽しんで帰ってほしい」という強い責任感が芽生え、現在は息子と共に富山・越中宮崎の海でインストラクターとして活動しています。


富山の海を仕事の舞台にしようと思った理由は?

一番の理由は、宮崎の海が私の生まれ育った「地元の海」だからです。以前は新潟県の親不知でガイドをしていましたが、コロナ禍で県境をまたぐ移動が制限されたことが大きな転機となりました。

「それなら自分の地元の海を潜らせてもらおう」と決意したのですが、当時は越中宮崎にダイビングエリアとしての前例が全くなく、地元の漁師さんたちも「潜って何をするんだ? 密漁でもするのか?」と最初は不信感を持っていました。そこで主人と二人で、写真を見せながら「海の中の景色や生物を楽しみたいんだ」と根気強く説明し、信頼関係を築くところから始めました。

自分たちで厳格な規約やルールを一から作り、漁師さんたちと調整を重ねることで、2021年にようやくダイビングエリアとしての開拓を実現させることができました。今では漁師さんたちが「今日は海どうだ?」とショップに遊びに来てくれるほど、地域に根ざした活動になっています。


西田さんが考える、富山の海の魅力は?

最大の魅力は、北アルプスから連なるダイナミックな地形が、そのまま水中まで続いている点です。立山連峰から続く山の尾根が水中に潜り込み、最後はスパンと切り落とされるような、高低差20メートル以上のドロップオフや尾根が広がっています。こうした山と海が一体となった地形は、富山県内でも宮崎の海でしか見られない唯一無二の光景です。

また、季節によって全く異なる表情を見せてくれるのも魅力ですね。夏場は透明度が上がり、地形の迫力や回遊魚などの大物を楽しめますが、冬場になると一変してマクロの聖地になります。特に北海道で見られるようなウミウシが観察できるのは非常に珍しく、関東から「レアなウミウシが出た」と聞くや否や駆けつける熱心なファンの方も多くいます。水温が30度以上になる夏から、ウミウシが活発になる10度以下の冬まで、一年中飽きることがない豊かな海となっています。


富山(越中宮崎)に来たらここに潜ってほしい!おすすめポイント3選

① ラビリンス~水中参道

越中宮崎に来たらぜひ潜ってほしいのが、「ラビリンス」から「参道」へ続くロマン溢れるコースです。まず「ラビリンス」は岩が重なり合った複雑な地形で、2メートルを超すオレンジ色の大きなオノミチキサンゴがドーンと生息。周りにはウミカラマツやフトヤギなどが群生しており、まさに迷路のような迫力があります。そこを抜けると、私たちが「水中参道」と呼ぶ、石を敷き詰めたようなまっすぐな1本道が現れます。ここにはかつてお宮さんがあったという言い伝えがあり、大学の教授が調査に来たり、NHKでも「龍の伝説」として放送されたりしたほどです。深いところは水深27〜28メートルほどありますが、水中考古学的な謎に包まれた、宮崎の海を象徴する神秘的なポイントとなっています。

沖ノ瀬Wアーチ

初心者の方でもダイナミックな地形を楽しめるのが、この「沖ノ瀬Wアーチ」です。水面からは見えない大きな隠れ根に、2つの大きな穴(アーチ)が開いています。アーチの下でも水深15~16メートルほどなので、ボートダイビングの経験が少ない方でも安心して楽しむことができると思います。実はここ、地形だけじゃないんです。さらに東側へ進むと、昔の人が住んでいたのではないかと思わせるような「塀」が続いています。その塀を伝っていくと、ある場所でパシッと90度に曲がる角があるんです。そのまま進むと前述の「水中参道」に行き着くので、かつての巨大な遺構の一部ではないかと私たちは考えています。

③ 沖ノ瀬先端

中・上級者の方にぜひ挑戦してほしいのが、エキサイティングな「沖ノ瀬先端」です。ここは名前の通り、北アルプスから連なる山の尾根が水中で途切れる、まさに最終地点となっています。水深が35メートルほどまで深くなるため、エアー管理がしっかりできる方限定ですが、その分見応えは抜群です! 一番の驚きは、通常は1尾で行動するはずのコブダイが、なぜかここではいつも4尾一緒に群れていること。これは本当に珍しい光景です。さらに、地形の高低差が20メートル以上あるドロップオフになっていて、大物の回遊魚がアタックしてくるチャンスもあります。北アルプスのダイナミズムを全身で感じられる最高なポイントです。


富山の海でガイドするうえで西田さんが心がけていること

何よりも「安全第一」です。宮崎の海は海流が速く、潜っている最中に急に流れが強くなることもあります。そのため、ブリーフィングでは「流れが変わった場合はドリフトダイビングに切り替えます」と事前に周知し、水中でも常に潮の変化やお客様の残圧に気を配っています。

また、お客様のニーズは「地形を見たいワイド派」から「じっくり写真を撮りたいマクロ派」まで様々です。一度のダイブで全員に満足していただくため、コース取りを工夫して見せ方を変えるなど、ガイドとしてのこだわりを持って接しています。

さらに、最近は海に親しむきっかけ作りとして「ヒスイ探しスノーケリング」にも力を入れています。ダイビングはハードルが高いと感じる方や、海に入らなくなった地元の子供たちにも、泳ぎながらヒスイを探す体験を通じて、まずは海を身近に、好きになってもらいたいと考えて活動しています。


富山(越中宮崎)に潜りに行きたいと考えているダイバーへのアドバイス

宮崎の海を存分に楽しむためには、「中性浮力」と「スムーズな潜降」という基本スキルをしっかり磨いておくことをお勧めします。水深があり、流れが速いポイントも多いため、浮力コントロールができないと、せっかくの素晴らしい地形や生物を落ち着いて観察することができません。また、初めてお越しの方には、まず手前の穏やかなポイントでスキルチェックを行い、安全を確認してから沖のポイントへご案内するようにしています。これは「絶対に事故を起こさない」という私たちの決意でもあります。

もうひとつ、宮崎ならではの注意点として、海底には巨大なオニオコゼがうじゃうじゃ潜んでいます。中には金色や真っ白な珍しい個体もいますが、不用意に手をつくと大変危険です。「海底には手をつかない」という意識を持って潜ってください。基本を大切にするダイバーであれば、この海の地形のおもしろさにきっと虜になるはずです。


《ダイブベース37》

[ショップDATA]

下新川郡朝日町宮崎3274-1  <Map>

TEL:0765-32-5025

営業時間:8:00~17:00

定休日:不定休

ウェブサイト:https://divebase37.com/

現在は私と主人、息子の3名でガイドをしており、アットホームで笑いの絶えない雰囲気が自慢のショップです。私は富山県で唯一の女性インストラクターですので、女性おひとりでの参加でも不安がないよう細やかなケアを心がけています。施設面では、シャワールームや器材干し場、コンプレッサーを完備しており、地元の漁師さんがふらっと遊びに来るような、地域との繋がりも深い場所です。

意外に思われるかもしれませんが越中宮崎は、実は東京から新幹線で日帰りできるほどアクセスが良いんです。駅からショップまで送迎も行っていますし、機材の発送・保管サービスも承っているので、「週末に身軽に富山へ」というスタイルで通ってくださる関東のお客様もたくさんいます。おかげさまで『マリンダイビング大賞』の国内エリア部門やショップ部門でもランクインさせていただきました。これからも初心を忘れず、地元の美味しいタラ汁の話なども交えながら、皆様を温かくお迎えしたいと思っています。

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