2025年は巳(へび)年。蛇は幸運を象徴する存在で、巳年は新しいことを始めるにも良い年といわれています。そんな巳年にダイビングでぜひ会いたいのが、海の中の蛇「ウミヘビ」。ひと口にウミヘビといっても、実は「魚類」のウミヘビと、「爬虫類」のウミヘビの2種類がいるのをご存じですか? それぞれのウミヘビの特徴や見分け方、ダイビングで出会えるウミヘビについて紹介します。
爬虫類のウミヘビ
爬虫類のウミヘビは、有鱗目(ヘビやトカゲの仲間)に属し、陸から海へ棲みかを変えたヘビです。横縞を持つ種類が多く、そのことからコブラから進化したという説も。熱帯から亜熱帯の海域に生息し、日本近海のダイビングでもいくつかの種類のウミヘビを見ることができます。
肺呼吸のため、水中にい続けることはできず、ときおり海水面に上がって呼吸をする必要があり、中にはエラブウミヘビのようによく陸に上がる種も。尾が縦に平べったくなっており、泳ぐのに適しているのが特徴で、泳ぐ際は体を横にくねらせて泳ぎます。
強い毒(神経毒)を持つものも多く、咬まれると主に麻痺やしびれが起き、呼吸や心臓が停止して死に至ることも。ただし、性格はおとなしいものが多く、身の危険を感じたときにしか噛みつかないため、むやみに刺激しなければダイバーが咬まれることはまずないでしょう。
- イイジマウミヘビ
沖縄などのサンゴ礁の海でよく出会うウミヘビ。いかにも毒がありそうな見た目で、ダイビングで見かけると思わず身構えてしまいそうですが、スズメダイなどの魚卵を主食としているため、毒牙や毒腺は退化し、唾液もほぼ無毒化されているといわれています。全長は50~90cmほど。吻端の上面に外鼻孔がついており、潜水中は鼻の穴から水が入らないように開け閉めできるようになっているため、一旦呼吸すれば30分~1時間は潜っていることができます。
- エラブウミヘビ
日本では南西諸島を中心に分布しており、沖縄では「イラブー」と呼ばれて食材にもなっているウミヘビ。全長70~150cmほどでメスのほうがオスよりも大きくなります。背面の体色は青色ですが、個体差が大きく、青の濃さはさまざま。幼少の頃は鮮やかな色をしており、成長するにしたがって褐色味を帯びてきます。エラブトキシンと呼ばれる強い神経毒を持っており、その強さはハブの70~80倍の強さといわれるほど。昼間は岩の隙間などで休んでいることが多く、夜になると活発に動きます。
- クロガシラウミヘビ
主に熱帯から亜熱帯に生息しており、日本では南西諸島や沖縄などでよく見られるウミヘビ。全長80~140cmほどで細長い体形をしており、頭部が黒いものが多く、全体の体色は淡黄色で黒い横の帯があります。毒を持っており、やや攻撃的な性格のため、むやみに刺激しないように注意が必要。アナゴなどの魚類を食べ、頭部で海底の砂を掘り起こし獲物を探す姿を見かけることもあります。
魚類のウミヘビ
魚類のウミヘビは、ウナギ目ウミヘビ科に属しており、世界中の温帯または熱帯海域に分布しています。体形は細長く、爬虫類のヘビに似ていますが、魚類なので鰓(エラ)があり、水中で呼吸することができ、水面まで呼吸をしに上がることはありません。肉食で、砂の中に身を隠して獲物(小型の魚類や甲殻類)を狙います。魚類なので鰭(ひれ)がありますが、種によっては尾鰭、胸鰭、背鰭、腹鰭がないこともあります。爬虫類のウミヘビのように毒は持っていませんが、鋭い歯を持っている種もいるため注意が必要です。
- ダイナンウミヘビ
伊豆半島や紀伊半島などを近場エリアでのダイビングでもよく見かけるウミヘビ。夜行性で、昼間は砂に潜って顔だけを出している姿が見られます。大きな口、鋭い歯など見た目は獰猛ですが、砂から顔を出している姿は愛嬌があり、水中写真の被写体としても人気があります。体は非常に細長く、尾鰭がないのが特徴。体表はつるっとしており、強いぬめりがあります。
- シマウミヘビ
白と黒の縞模様が美しいウミヘビ。爬虫類のウミヘビのそっくりの見た目ですが、こちらもれっきとした魚類。強い毒を持つ爬虫類のウミヘビに擬態することで身を守っているという説もあります。インド・太平洋の熱帯域に広く分布しており、日本では琉球列島のほか、高知県の柏島や沖ノ島で生息が確認されています。頭からでも尾からでも砂に潜ることができ、砂の中から鼻先だけ出していることも多いです。
- トンガリホタテウミヘビ
ダイバーがよく出会うウミヘビとして知られていたミナミホタテウミヘビですが、2020年に分類が見直され、鹿児島本土以北に分布しているのがホタテウミヘビ、琉球列島から南に分布しているのがトンガリホタテウミヘビとされ、また別にミナミホタテウミヘビが南日本(琉球列島を含む)に分布していることがわかりました。写真も以前はミナミホタテウミヘビとされていましたが、この分類の見直しにより、実はトンガリホタテウミヘビだったということに。こちらも他のウミヘビと同様、基本的に夜行性で、日中は砂や砂泥底に潜り、頭だけ海底から出しています。
爬虫類と魚類のウミヘビの見分け方
爬虫類のウミヘビと魚類のウミヘビ、それぞれの特徴はわかりましたか? 最後に、爬虫類のウミヘビと魚類のウミヘビを見分けるポイントをいくつか紹介します。
- 吻の先端に鼻管があるか
魚類のウミヘビの吻の先端には鼻管があり、よく目立ちます。爬虫類のウミヘビには鼻管はなく、鼻孔と呼ばれる鼻の穴があるだけです。 - 鰭や鱗があるか
魚類のウミヘビには鰭がありますが、爬虫類のウミヘビには鰭がありません。ただし、魚類のウミヘビも種によっては一部の鰭がないものも。一方で爬虫類のウミヘビには鱗がありますが、魚類のウミヘビには外見上は鱗がなく、体表がつるっとしています。 - 鰓呼吸をしているか
魚類のウミヘビは水中で鰓呼吸をしているため、よく見ると鰓が動いているのがわかりますが、爬虫類のウミヘビは水中で呼吸をしていません。呼吸のために定期的に水面に浮上する必要があるため、そのような行動をしていれば爬虫類のウミヘビとわかります。
そのほか、見た目ではわかりませんが毒の有無や、分布域(爬虫類のウミヘビは暖かい海に多く、大西洋には生息しない)、卵生(魚類)/卵胎生(爬虫類)の違いなどがあります。ダイビングでウミヘビに出会ったら、ぜひじっくりと観察して、爬虫類と魚類のウミヘビのどちらなのかを考えてみてくださいね。