はじめに

PADIのビジョン「人類と海のバランスの取れた共存・共栄を目指す」をご存じでしょうか?残念ながら、私はインストラクターになるまで知りませんでした。これは、どういう意味なのか。バランスを取るためには何が必要なのか。愛?勇気?希望?金?そのようなことを考えながら、読んでいただければと思います。

第1章: ボランティア組織を立ち上げたきっかけ

アフリカのことわざで、「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」と言う言葉があります。まさにこの通りで、大抵のことは一人でやった方が早い。でも、理想がどんどん大きくなり「あれもこれもやりたい、こんなこともできそうだ」と無限に出て来るアイディアを現実世界に落とし込んだ際に、一人では無理なことに気が付いたのです。これが、私が「組織・団体」にしようと思ったきっかけです。

元より、私は「仕組み」を作るのが好きです。現状と課題、背景を考えて分析し、思い描いたことを具現化する工程が好きで、成果として目に見える形になり勝手に動いて行ってくれることが好きです。そしてそれが、自分が思いついた何かではなく、別の誰かの希望だったりすると俄然やる気が出ます。

それにしても、振り返れば学生時代から「○○建設計画に寄付しよう。ただ、私のポケットマネーを寄付しても面白くないから、チャリティーイベントを開催して寄付を集めよう」とか、「某団体に寄付をしたい。お金を集めるだけではひねりがないから、学校で洋服等の提供を募ってフリマで売ってそのお金を寄付しよう」など、目的に向かっていかにプランを練って、それを実現するかを考えて色々と実行してきました。

ここまで読んで気が付かれた方もいるかもしれませんが、私は聖人君主な社会奉仕精神にあふれた人ではありません。思い描いたことを「いかにして実現させるか」を考え、関係者を口説いて味方を増やし、交渉を成立させることが好きなだけの人。あくまでも自分の好きを極めて来た結果、それがスキルとなり、偶然にも環境問題と結びついて今に至っているだけなのです。

第2章: 団体のはじまり

私はまず名前を決めました。A4の裏紙に頭に浮かんだ言葉や持たせたい想いを書き出して、最終的にたどり着いたのが「Mountain Ocean River Earth」の頭文字を取り、未来や進化を連想させるためにつけた「MORE企画」です。この名前を考え付いたのは、両親と夕飯を食べる直前で「素晴らしい名前じゃないか!」とピタっとハマった気分で二人に発表したのを覚えています。

そしてその後、イラストレーター兼デザイナーの有森南央氏、ダイビングインストラクターでオーシャンディレクターの大石彩夏氏と私3人が中核としてスタートを切ったのです。それでも最初のころは、2人はどこまで日々のウエイトを置こうと思っているのかわからず探り探りでしたが、プロジェクト単位で色々なことを進めて行く中で、それぞれの想いを常に共有し合って今日まで仲良く来ています。

第3章: 組織作りで気をつけていること

私はこれまで会社内で人を育てる立場ではありましたが、0から組織を作ったことはありません。まして、わかりやすい金銭の対価が存在せず、各々のやる気だけで構成されている組織など、どう組み立てて良いかわかりません。それでも職業柄いろいろな人の経歴を見たり、営業職として様々な人と話をしたりして来たので、それらの記憶をたどりながらまずはこの組織のメンバーに必要な人材とその特性を考えました。そして結果的に「中核となるのは、スキルや経験以上に“愛”のある人」を置くことを重要視しました。気遣いができて、周りとの調和も取れる。しかし、優しいだけではなく、時に愛のある厳しさも他人へ向けることができる。そんな人となら一緒に取り組めると思ったからです。なぜなら私は代表として、時に暴走するかもしれない、独断と偏見で何かを決めようとするかもしれない、視野が狭くなってしまうかもしれない・・・から。これまで、そんな独りよがりな行動や言動をし続けた結果、自ら組織を壊わして孤独になったトップを数多く見てきました。そうなるわけにはいきません。なぜなら先に書いた通り、遠くへ行くためには「みんなで」行く必要があるからです。

左から:メンバーの大石彩夏氏、有森南央氏、私

第4章: 資金調達

言わずもがな、活動をしていく上でお金が必要です。助成金や寄付金をいただきながら自転車操業をしていますが、助成金の申請はとんでもなく大変です。加えて、大学時代に教授が「寄付に頼った非営利団体の運営は上手くいかない。30%に抑えるのが理想だ」と言っていたこともあり、自分たちで資金を稼ぐことも重要な課題のひとつです。しかし、お金は需要があり、そこへ供給できる物や能力がある場合に生まれます。需要を「困っている」と定めるのであれば、私たちが行っている「その辺のゴミ拾い」には需要が生まれません。家の中がゴミ屋敷になってしまったら、困っているので業者へ何十万も払いますが、その辺に落ちているゴミには誰も困らない。最初、私たちは直接的にゴミ拾いで活動資金を稼ぐ手段がありませんでした。そこで、現在の「海と山の学校MORE SCHOOL」やイベントの企画運営、執筆活動?などを、自分たちのスキルや経験を供給するサービスとし需要を作ったり、委託業務や組合等で予算を組んでもらったりする交渉なども欠かしません。こうして集めた資金を自分たちの日々の活動の経費にしたり、適切な人や場所へ支払ったりすることで、私たちの目的である「ゴミをなくす」を持続可能な形で、叶えて行こうと模索しています。

第5章: 活動の計画と実行

今後は個人ではできないことを団体として企画し、交渉、実行していきます。個人が「掃除したいです」とひとりで行っても門前払いをされるかもしれなくても、私たちであれば話を聞いてもらえる可能性を秘めています。現在すでに、数か所の港やマリーナとすでに話が進んでおり、プロダイバーへも報酬を支払って「有償ボランティア」として受けてもらいます。ボランティアとは、自らの意思で社会貢献活動等へ参加することを言い、報酬の有無は関係ありません。しかし、日本ではまだまだ「無償だから偉い」と思われる傾向にあります。日本でチャリティー活動や社会貢献活動がイマイチ広がらない理由のひとつではないでしょうか。結局はその価値観ゆえに、個人の生活の中で社会貢献活動の優先順位がどんどん下がるのは、火を見るよりも明らか。それは、私の好きな「仕組化」ができている状態とは言えないでしょう。

おわりに

最後に、冒頭に書いた「人類と海のバランスの取れた共存・共栄を目指す」に戻ります。共存と共栄をするには、どちらか片方が搾取するだけでは共倒れです。そのためには、まず知識と経験が必要です。机上の空論で終わらないためにも、メディアが発信した内容を鵜呑みにするのではなく、自分の目で見て耳で聞いて体験することが重要です。私たちは、その機会をPADIと一緒に私たちなりの方法で提供していきます。

私たちは地球に住む生き物の1種として、他の生き物たちの命の上で生きている者として、そして何より海を探求し、そして守っていくためのトーチベアラーのダイバーの一人として、自分たちにできることを一緒に考えて実行していきましょう。

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