みなさん、こんにちは。PADI AmbassaDiver白井ゆみです。
ダイビングを通じて海の豊かさを知るほど、その危機も目の当たりにしてきました。2021年、私は仲間とともにごみ拾い活動を始め、2025年7月にはNPO法人MORE企画として新たな一歩を踏み出しました。PADIのミッション「人類と海のバランスの取れた共存・共栄」を、言葉だけでなく行動で示すために。

仲間たちとの連携による広がり
私が取り組んでいる活動は、一部の人の力だけでは成り立ちません。これは精神論ではなく、実際に現場に立ってきた私自身が「海洋問題は皆が立ち上がらなければ、到底解決できない」と実感している現実です。

これまで行政や企業など官民一体となる体制を目指して、イベントやプロジェクトのたびに自分たちの足で話し合いを重ねてきました。なかでも、地域の方々や協賛企業の支援、そして海上保安庁や自衛隊、消防の水難救助隊の協力は私たちの活動にとって大きな力となっています。
年齢、性別、業種、立場を超えて、「自分にできることをしよう」という想いが、多くの仲間をつなぎ続けてくれました。時には、偶然の出会いから思いがけない連携に発展したこともあります。一人ひとりの行動が波紋となり、思いがけない連携を生む。それを、この4年間で何度も実感してきました。
私たちは、どんな活動をしているのか
【伊豆半島の海ゴミ一掃プロジェクト】
では、多くの方の力を合わせて私たちがどんな活動をしているのかを紹介します。様々な取り組みをしていますが、現在、最注力しているのは水中清掃の企画である【伊豆半島の海ゴミ一掃プロジェクト】です。
このプロジェクトには、3つの大きなポイントがあります。
1、水中清掃に参加するプロダイバーへ謝礼金をはらうこと(有償ボランティア制度)
2、潜水禁止の漁港やマリーナなどに、特別許可を得て清掃をすること
3、開催地ごとに協賛金・協賛品・ボランティアを募り、地域介入型のプロジェクトとすること

このプロジェクトが始まって約1年半が経ち、この間、通算9か所の港やマリーナで開催をしました。最近やっと形やスタイルが確立されてきましたが、ここに至るまでには多くの人の想いや協力が必要でした。
活動を始めた当初、私はダイビング業界のことも、漁師さんや漁協の内情も知りませんでした。ダイビングも趣味程度で、アクティブダイバーとは言えない時期も長かったのです。それでも、一歩足を踏み入れてみると、そこには多くの問題と課題、人々の願い、守られてきたもの、そして守りきれなかったものがありました。
理想と現実のギャップを見つめながら、「私たちだからこそできることは何か?」「私たちが実現させたいことは何か?」を問い続け、仲間とともに模索する日々が始まりました。そして2024年6月、第1回目のプロジェクトが動き出しました。
具体的な成果
このプロジェクトでは、2024年6月〜2025年11月の間で海から7トン以上のゴミを回収しました。数字だけ見れば「大成功!」と感じるかもしれませんが、実際には、まだまだ海にも山にも、膨大な量のゴミが残っています。それでも、これは多くの人の力を合わせたからこそ出せた結果です。

沼津市・熱海市・伊東市・下田市・西伊豆町・伊豆市でそれぞれ1〜2回ずつ開催し、回を重ねるごとに参加者・協力団体・協賛金・協賛品すべてが増えてきています。
私たちが協力者を募っている一番の目的は、「お金が欲しい」からでも「人手が足りない」からでもありません。関わる人が増えれば、その分、海が守られると信じているからです。知らない誰かが、知らない間に掃除した海よりも、「自分も少しだけ手伝った」「知っている誰かが関わっていた」と感じられる海の方が、きっと愛着がわくはずです。そうして生まれる”ちょっとだけ特別な海”が増えていけば、海だけではなく自然を大切に思う気持ちがきっと広がっていくでしょう。
そうは言っても協賛や協力を集めることは、たとえ1,000円であっても、本当に大変です。開催日が決まれば、私たちは地域の企業や関係先に端から連絡をして協力をお願いしています。30件連絡して、返事をいただけるのは1件程度。実際に協力していただけるのは、さらに少数です。
それでも、開催後に何かで私たちの活動報告を見て「ああ、あの時の話か。次は協力しよう」と、記憶の片隅に残っていればそれでいいと思っています。大変なアクションですが、後日、新聞やSNSで活動を目にしたとき「次は自分も」と思ってもらえるきっかけになるかもしれませんので、無駄なことだとは思っていません。そしてこのように、途方もないと思うことの中にも、無駄ではないものが必ずあると信じています。
現在直面している課題
しかしどんなに「小さな協力を寄せ集めて、大きな活動にしよう」と思っても、活動を継続していく上で避けては通れない課題があります。それが「資金」です。
私はかねてより、非営利団体が持続可能な運営体制を築くためには、寄付や助成金に依存する割合を全体収益の3割以下に抑えるべきだと考えてきました。というのも、資金の大半をこうした不安定な収入源に依存していた団体の多くが、志半ばで解散していく姿を見てきたからです。とはいえ、私たちには当初、残りの7割を支える事業収入がありませんでした。つまり活動を維持するためには、ほぼ全額を寄付や助成金、ポケットマネーで賄わなければならない状況が続いていたのです。
資金を得るためには、まず「活動の存在を知ってもらう」ことが不可欠です。認知拡大のための広告宣伝費をかけられる大手企業と異なり、私たちにはそうした余裕はありません。そこで私たちは協賛のお願いをする声掛けと共に、企業や学校などで無料の講演活動を展開し、地道に認知度を高めていく道を選びました。地元の商工会議所やロータリークラブ、ライオンズクラブといった経営陣の集まる場にも積極的に足を運び、活動への理解と共感を広げてきました。こうしたアプローチが少しずつではありますが、さまざまな形で成果として表れ始めています。


また、企業の助成金制度にも積極的に挑戦しています。年間10件以上の申請を行い、採択されるのはそのうち1件程度。採択率は決して高くはありませんが、申請の過程そのものが、私たちの活動を振り返り、構造化する貴重な機会となっています。申請書類を通じて、自分たちのビジョンや目指す社会像、活動の意義、具体的な成果や将来の計画を言語化する。これは単なる資金調達ではなく、組織の方向性を明確にするブランディング戦略の一環とも言えるでしょう。
現在も、日々PCに向かい資料を整え、人と会い、提案を重ねる毎日が続いています。安定した事業収入の確立には、まだ時間と工夫が必要です。それでも資金調達という地道な努力が、私たちの活動の土台を支えていることに、確かな手応えを感じています。
未来への挑戦
「何かしなきゃいけないと思っていた」
「何かしたいと、ずっと思っていた」
そんな言葉を、たくさん聞いてきました。
そして、清掃活動を手伝ってもらうたびに「この街の海を掃除する機会をくれて、ありがとう」と言われ、そんな声が私たちの背中を次へと押してくれます。私たちの活動は、単なる水中清掃ではないのかもしれません。「想いをカタチにする場」をつくることでもあるかもしれないな、と最近よく思います。誰かの気持ちが、行動に変わる瞬間を届けること……私たちには、それができると思っています。
振り返れば、ここまで来られたのは私ひとりの力ではありませんでした。むしろ、一人だったら、ここまでやりたいとすら思わなかったかもしれません。ともに汗を流し、笑い合い、ときに語り合いながら進んできた仲間がいたからこそ、今の私があります。

これからのMORE企画は、もっと多くの人とつながり、さまざまな声に耳を澄ませながら、想いを「カタチ」にしていく挑戦を続けていきます。
肉屋、魚屋、八百屋、カフェ、木材屋、歯医者、パン屋、お茶屋、獣医、飲食店、広告代理店、車屋、保険屋、ダイビングショップ、自衛隊、海上保安庁、消防、行政——業種も立場も越えて、多くの人を巻き込みながら、ひとつでも多くのごみを、海や山から引き上げ正しい処分ルートへと送り出していきます。
壊してしまった自然を元に戻すのは、特別な誰かではなく「わたしたち一人ひとり」です。
そして、この記事を読んでくれた、あなたです。
自分のために、誰かのために、未来のために。
できることを、できる人と、できるかたちで。
一歩ずつ、進んでいきましょう。
私は、PADI AMBASSADIVERとして、「海を探求し、そして守っていくために、10億人のトーチベアラーをつくる」そんなPADIのミッションを、自ら体現する存在でありたいと願っています。大きな目標を語ることも、小さな一歩を笑わず踏み出すことも、どちらも未来への光になります。言葉だけではなく、行動で示す。それが、これからの世代への、私なりのバトンの渡し方です。