現在記録されている海洋生物種が25万種近くあることをご存知でしょうか。ダイバーが水中で見つけた魚の名前を特定するのに苦労するのも無理はありません。しかも、似ている動物は数え切れないほどいるのが事実です。
ここでは、よく似た水中生物の見分け方のポイントをいくつか紹介します。
バショウカジキとメカジキ
長い歯のある顎を持つ細長い海面にすむ捕食魚の仲間であるバショウカジキとメカジキは、槍のような吻を持ち、高速で獰猛なハンターです。両方ともスズキ目ですが、バショウカジキはマカジキ科、メカジキはメカジキ科。メカジキ科とマカジキ科の大きな違いは腹ビレの有無です。メカジキ科には腹ビレがなく、マカジキ科には腹ビレあります。
また、どちらも帆のような背ビレを持ちますが、メカジキの背びれは小さく、三角形になっています。バショウカジキは英名「Sail-fish(セイルフィッシュ)」と言われ、船の帆のような広く大きい背ビレが特徴で、これがバショウ(芭蕉)の葉のように見えます。
左:バショウカジキ 右:メカジキ
リーフィーシードラゴンとウィーディーシードラゴン
リーフィーシードラゴンは、南オーストラリアに生息するケルピーを模した付属物で飾られています。一方、よりなめらかなウィーディーシードラゴンは、装飾を黄色、赤、鮮やかな紫のカモフラージュに替えています。どちらもトゲウオ目ヨウジウオ科に分類されます。
左:リーフィーシードラゴン 右:ウィーディーシードラゴン
タイマイとアオウミガメ
オサガメなどの他のカメはもっと特徴的ですが、多くのダイバーが見間違うほどこの2種は似ています。タイマイはクチバシが鋭くフック状なのに対し、アオウミガメのクチバシは丸みを帯びています。タイマイは尖ったクチバシを器用に使ってサンゴや岩の隙間に生えているカイメンなどを食べます。アオウミガメは海藻を食べるベジタリアンですが、クラゲやトサカの仲間を食べているところも目撃されています。
左:タイマイ 右:アオウミガメ
カサゴとオコゼ
両者ともカサゴ目フカカサゴ科で、カモフラージュの達人です。よく見るとオコゼは頭でっかちで体が丸く、機嫌の悪そうな「への字口」をしているのに対して、カサゴの目はより突き出て、ぎょろっとしています。両者とも毒棘を持っていますが、オニダルマオコゼについてはその棘が太く、致死性が高いです。
左:カサゴ 右:オコゼ
ツノダシとハタタテダイ&ムレハタタテダイ
ツノダシはスズキ目ニザダイ亜目ツノダシ科ですが、ハタタテダイはチョウチョウウオの仲間で、大きな群れで見られることが多くあり、ツノダシにとても似ています。また、ハタタテダイは単体か数尾で行動するので、群れていればムレハタタテダイとわかります。ハタタテダイとツノダシの違いを見分けるには、尾と顔を見比べてみてください。ハタタテダイは眼がパッチリしていて尾ビレは黄色ですが、ツノダシの尾ビレは黒で眼は目立たず、口元もかなり突出しています。
左:ツノダシ 右:ハタタテダイ
ヘラヤガラとアオヤガラ
ヘラヤガラは真っすぐ泳ぎますが、アオヤガラは体をくねらせながら泳ぎます。アオヤガラの尾には特徴的な糸状の尻尾のようなものがありますがヘラヤガラにはありません(アオヤガラにそっくりだけど色違いのアカヤガラという魚もいて、こちらにも尻尾のようなものはあります。基本的に色が違うだけですが、アカヤガラは高級魚とされています)。両者ともトゲウオ目に属します。
左:ヘラヤガラ 右:アオヤガラ
アシカとアザラシ
アシカとアザラシはどちらも「鰭脚類(ききゃくるい)」というグループに属している生き物で「ひれあし類」とも呼ばれ、その名の通りヒレのような脚をもつ動物です。アシカ科、アザラシ科、セイウチ科の3種がその仲間になります。その中でも特に似ているアシカとアザラシですが、アシカには耳介(耳たぶ)がありますが、アザラシにはありません。また、アシカはヒレを使って歩くのに対してアザラシは腹ばいで移動します。水中を泳ぐとき、アシカは前ヒレを使って泳ぎますが、アザラシは後ヒレを左右にふって泳ぎます。アシカは英語で「シーライオン」、 アザラシは「シール」と言います。鰭脚類の仲間にはセイウチもいますが、セイウチにはキバがあるので一目瞭然ですね。
左:アシカ 右:アザラシ
エビ(shrimp)とエビ(prawn)
皆さんは、エビと言えば「シュリンプ(shrimp)」ですか?それとも「プラウン(prawn)」ですか?両方とも日本語では「エビ」ですが、その使い分けは大きさのようで、「シュリンプ」は小型のエビを指し、それよりも大きなクルマエビなどは「プラウン」を使うようです。また、通常、「シュリンプ」のほうは冷たい海水で見られることが多いですが、「プラウン」のほうは暖かい淡水を好みます。形も「シュリンプ」は比較的真っすぐ気味で、「プラウン」はくるっと丸まっているイメージ。
しかし、こんな使い分けも国や地方によって違いがあり、「シュリンプ」と「プラウン」を区別せずに小さいエビも「プラウン」と呼んだり、「プラウン」はより大型のものや淡水で獲れるものを指すこともあるようなので、決して正解はないようです。言い方の違いがあるということを知るだけでも楽しいかもしれませんね。
左右:ともにプラウン(prawn)(左はブラックタイガーという名称でご存じのウシエビ)
コブダイとナポレオンフィッシュ
額の膨らんだ巨大なこの魚たちは両者ともベラ科なので外見はそっくりですが、見分け方は簡単です。コブダイの口は硬くくちばしのようで、ナポレオンフィッシュの口は大きく肉厚です。体の色もコブダイは薄いピンクっぽい色なのに対して、ナポレオンフィッシュは青緑っぽい色をしています。
左:コブダイ 右:ナポレオンフィッシュ
フグとハリセンボン
フグとハリセンボンは両者ともフグ目で、ともに捕食者から身を守るために体を膨らませますが、フグは致死性のテトロドトキシンを生成することができます。しかし、ハリセンボンはほぼ無毒です。フグは滑らかな皮膚を持ち、ハリセンボンは骨の棘を鎧として使います。
左:フグ(コクテンフグ) 右:ハリセンボン
イルカとネズミイルカ
イルカもネズミイルカも鯨類に分類される海洋哺乳類でですが、両者には多くの違いがあります。イルカの背びれは湾曲していますが、イルカの背びれは三角形をしている。イルカの背びれは湾曲していますが、ネズミイルカの背びれはよりとがった三角形をしています。また、口元にも違いがあり、イルカは細長い口(くちばし)ですが、ネズミイルカはより短く、笑ったような顔をしています。
左:イルカ(ハンドウイルカ) 右:ネズミイルカ
マナティとジュゴン
海牛(かいぎゅう)類の仲間は世界に4種(ジュゴン、アメリカマナティー、アマゾンマナティー、アフリカマナティー)ですが、マナティ科とジュゴン科に大別され、海牛目に属する哺乳類の総称です。この2種はよく混同されるよく似た動物ですが、見分ける最も簡単な方法は、体の形です。ジュゴンは「クジラ型」の二股に分かれた尾ビレと長く広い鼻を持ち、マナティは「パドル型」の丸い尾ビレと短く丸い鼻を持ちます。また、マナティの胸びれには指も水かきもありませんが、爪があります。
左:マナティ 右:ジュゴン
ミミックオクトパスと、、その他のすべて!
ミミックオクトパスとは、「まねをするタコ」。この賢く人を欺く生物は、狩猟や防衛のために他の動物に擬態することができます。実際、ミノカサゴ、ウミヘビ、ヒラメ、甲殻類、クラゲなど、15種類以上の動物になりすますことができるのです。擬態を行なう生物は他にも多くいますが、ミミックオクトパスは擬態の種類の多さで群を抜いています。
おまけ1:海草と海藻
「海草」とは、陸上と同じように花を咲かせて種子によって繁殖する「種子植物」で、根や茎、葉の区別ができます。海中で一生を過ごす海産種子植物で比較的浅いところに多く、深いところに生育することはありません。代表的なものはアマモやスガモなどです。英語ではseagrassと言います。一方「海藻」とは藻類で、「海草」のように根や茎、葉の区別がはっきりしていません。海で生活する藻類で、キノコなどと同じように胞子によって繁殖します。代表的なものはコンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク、アオサ、テングサなどで、食べられるものが多いですね。英語ではseaweedと言います。
おまけ2:魚貝類と魚介類
両者とも読みは「ぎょかいるい」ですが、どのように使い分けるのでしょうか?「魚介類」のほうは範囲が広く、魚貝類に該当するものがすべて含まれているのに対して、「魚貝類」にはカニやエビなどは含まれません。「魚貝類」はその漢字の通り、魚と貝です。「魚介類」の「介」の文字には「“鎧”が体を守り“助ける”、硬い」などの意味を持つので、貝殻や甲羅などの硬いもの=エビやカニなどの甲殻類も含まれることがわかります。もしどちらの漢字を使うか迷ったときは「魚介類」としたほうが無難かもしれません。ちなみに、魚介類に加えてコンブやワカメなどの海藻まで含める場合は「魚介類」の範囲を越えている部分があるので水産物と言われるようです。
似ている水中生物の見分け方は:
同じように見える生き物たちを見分ける方法はたくさんあります。特に、魚の見分け方スペシャルティ・コースでは、ダイビングでよく目にする様々な海の生き物の見分け方と参考の仕方を学びます。魚の仲間や種の特徴、調査方法、海洋生物を保護するためのヒントなども身に付きます。
どんな生物を見たかを知ることで、そしてそれを他の人に伝えられるようになることで、あなたのダイビングはさらに思い出深く、楽しいものになるでしょう!