ダイビング用のタンク(正しくはシリンダー)の中身って何だろう?と思ったことはありませんか?ダイバーは水中で生き延びるために100%の酸素を背負っている――そんなふうに思っている人も多いかもしれません。でも、実はそれ、ちょっと違うんです。この記事では、シリンダーに詰められている気体の種類や、それがダイバーにどのような影響を与えるのかをわかりやすくご紹介します。また、水深が深くなるにつれて高くなる分圧に関する注意点や、ダイブコンピューターやダイブテーブルがどのようにしてリスクを減らしてくれるのかも見ていきましょう。
それでは、ダイビングの科学を一緒にのぞいてみましょう!

「あれって酸素ボンベでしょ?」──いえいえ、実は違うんです!
ダイビングをしていない人からよく聞かれるのが、「背中に背負ってるのって酸素ボンベでしょ?」という言葉。でも実は、それ間違いなんです。スキューバダイビングで使っているのは『空気』。酸素が約21%、窒素が約79%という、私たちが普段吸っているのとほぼ同じ組成の圧縮空気が入っています。また、ダイバーによっては「エンリッチド・エア」と呼ばれるガスを使うこともあります。これは酸素濃度を22%〜40%程度に高めた混合ガスで、残りは窒素です。
スキューバ・ダイビングで純酸素(100% O₂)を使うことはありません。「酸素だけだとより体に良さそう」と思うかもしれませんが、実はダイビングで100%酸素を使って潜るのはとても危険です。その理由は、酸素は水深が深くなって圧力が高まると“毒性”を持つようになるからです。一般的に、水深6メートルより深い場所で100%酸素を吸うと酸素中毒のリスクがあるとされています。
例外として、テクニカル・ダイビング(上級者向けの特殊潜水)では純酸素を使用するケースもありますが、この記事ではレクリエーショナルダイビングを中心に解説しています。

えっ、酸素って毒なの!?
酸素がどのようにして毒性を持つのかを理解するには、「分圧」の概念を知る必要があります。分圧を理解することで、ある気体や気体の混合物を使用できる最大水深を見積もることができます。分圧とは、混合気体の中に含まれる特定のガスが持つ圧力のことです。
ダイビングでは、酸素や窒素、テクニカル・ダイビングでは時にヘリウムなど、複数のガスが混ざった空気を吸っています。それぞれのガスは、全体の圧力に寄与しつつも、それぞれに独自の圧力(分圧)を持っています。これが「分圧」と呼ばれるもので、混合気体の中での個々のガスの圧力を指します。
さらに、ダイビング中には水圧にさらされることになります。地上では1気圧(1ata)ですが、水中では10メートル潜るごとに1気圧が追加されます。たとえば水深20メートルでは、1 ata+2 ata(水圧)=合計3 ataとなります。
圧力が高くなるにつれて、各ガスの分圧も高くなります。分圧は、全体の圧力 × そのガスの混合比で計算されます。たとえば、通常の空気を吸っている場合、酸素の割合は21%(=0.21)です。水深20メートル(66フィート)では全体の圧力が3 ataなので、酸素の分圧=3 × 0.21 = 0.63 ata となります。酸素中毒を防ぐために、酸素の分圧は1.4 ata(用途によっては1.6 ata)以下に抑える必要があります。仮に水深20メートルで100%酸素(=1.0)を吸った場合、酸素の分圧=3 × 1.0 = 3.0 ata となり、これは中毒のリスクを大きく上回ります。
先ほど紹介したエンリッチド・エアは、通常の空気よりも酸素の割合が高くなっています。これは、酸素を多く吸いたいからではなく、窒素の量を減らすことでダイバーが水中にいられる時間を延ばすためです。しかし、酸素が多い分、酸素中毒のリスクに達する水深も浅くなってしまいます。たとえば、EANx36(酸素36%)を使って水深20メートルに潜ると、酸素の分圧=3 × 0.36 = 1.08 ata となり、上限に近いですがまだ許容範囲です。最大の許容水深は、使用する酸素の割合によって変わります。
ダイバーは、PADIエンリッチド・エア・ダイバーコースなどで、このような酸素分圧と水深の計算方法を学び、安全なダイビング計画を立てられるようになります。

スキューバ・ダイビングは、水中の美しい世界を探索できるワクワクと感動に満ちたアクティビティです。でも、安全に楽しむためには、シリンダーの中身や水中でのガスの働きといった“ダイビングの科学”を理解することがとても大切です。
今回ご紹介したように、シリンダーに入っている気体や酸素の分圧について知っておくことで、より安全に、そして自信を持ってダイビングを楽しむことができます。もし、まだダイビングを始めたことがない方は、PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースで基本から学びましょう!すでに認定ダイバーの方でガスの仕組みにもっと興味がある方には、PADIエンリッチド・エア・ダイバー・コースがぴったりです。
正しい知識とトレーニングがあれば、海の世界はもっと安全に、もっと楽しくなる。さあ、次はあなたの番です。あなたの新しい冒険をスタートさせましょう!