皆さん、こんにちは!PADI AmbassaDiver白井ゆみです。私は普段、ダイビングインストラクターとして講習を担当することもありますが、基本的には一人のダイバーとして、そして環境保護活動を行う団体の代表として「海洋ゴミ問題」に取り組んでいます。また、この活動を一人でも多くの方に知っていただくために、啓発活動にも力を入れています。
今回は、すでに海の保護活動に取り組まれている方、これから一歩を踏み出そうと考えている方に向けて、私自身の経験と考えをお伝えしたいと思います。

スキルと経験値を高める
最近では、多くの団体が水中清掃イベントを開催しており、たくさんのダイバーの皆さんが興味を持って参加されるようになりました。海で遊び、海を仕事場とするダイバーたちが自分たちのフィールドを大切にしようとする姿に、私も大きな心強さを感じています。
一方で、安全面や技術面で少し心配になる場面に出会うこともあります。
私たちが2024年から仲間たちと始めた「伊豆半島の海ゴミ一掃プロジェクト」では、普段ダイバーが潜ることのない漁港やマリーナでの水中清掃を行っています。そこは、海底にヘドロがたまって視界がゼロ、水面には油膜が浮いているような、通常のダイビングポイントとはまったく違う環境です。沈んでいるゴミも、大型の粗大ゴミや鋭利なものばかりで、ロープを引っかける場所すらないことも多くあります。時には、高さ2メートル近い岸壁から飛び込んで作業し、垂直の階段をよじ登って陸に戻る、そんな過酷な場面もあります。

こうした理由から、このプロジェクトでは、十分な訓練と経験を積んだ熟練ダイバーに参加をお願いしています。ですが、同じような環境であっても、一般のレジャーダイバーが参加できるイベントもあると聞いています。どれほど経験を重ねていても、水中ではすべてが「自己責任」となります。私たちも特別な保険に加入していますが、それでも自分自身の安全を守るのは、最終的には自分自身なのです。
お伝えしたいのは、もし水中清掃活動に興味を持たれた際には、ぜひご自身のスキルと経験を振り返り、今の自分に合ったステップを選んでいただきたいということです。
たとえば──
- 水中で何かに引っかかったとき、冷静に対処できるか
- 視界が1~2mの中でも、安全に動けるか
- バランスを崩しても、すぐに立て直せるか
- ナイフやハサミを安全に使いこなせるか
- 予期せぬトラブルにもパニックにならず、安全に浮上できるか

水中清掃は、普段の「ガイドについて泳ぐダイビング」とは大きく異なります。できれば参加前に、普段お世話になっているダイビングショップやインストラクターに相談してみてください。きっと、今のあなたに合った練習方法や必要な知識についてアドバイスをもらえるはずです。清掃する場所によって難易度は違いますが、どんな場所であっても「通常のレジャーダイビングとは異なり、作業潜水に近い」という意識を持っていただけると安心です。そして、せっかく海のために行動しようとしているのですから、日ごろからスキルアップを意識して、自分自身の安全管理を高めることができれば、ダイバーとしての魅力がさらに深まるはずです。
よければ、以下のコースも参考にしてみてください。
知識と言う武器を身に着ける
目の前のゴミを拾うこと、ゴミの出ない暮らしを心がけること、自然を大切に思う気持ちはとても素晴らしいことです。ぜひそこに「知識」というもう一つの武器を加えて、より深いアクションにつなげていただきたいと思います。
たとえば海洋ゴミ問題がなぜ生まれたのか、その背景や歴史を知ることで、未来に同じ過ちを繰り返さない力になるかもしれません。日本もかつて、1960年代頃まではゴミをどこにでも捨ててしまう時代がありました。その後、リサイクルやSDGs、海洋ゴミ問題といった言葉が広く知られるようになり、確実に社会は進歩しています。それでも、こうした言葉が必要な現実があることには、少し寂しさと虚しさを感じずにはいられません。

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』、手塚治虫の『ガラスの地球を救え』、そして藤子不二雄の『ドラえもん』でも、ずっと以前から環境破壊への警鐘は鳴らされてきました。多くの人がそれに感動し、心を動かされたはずなのに、なぜ今もこの状況になってしまったのか。そう考えると、それは私たち人間が、自分たちの「便利さ」や「利益」を優先してきた結果ではないかと思います。
まずは、環境保護活動を始める前に、「この状況は他人事ではなく、自分たちが作り出してきたものだ」と受け止めることから始めたいですね。

また、すべてのダイビングショップやインストラクターが「完璧な海のプロフェッショナル」ではありません。知らないことや気づかないことがあるのは、どんな職業でも自然なことです。そして、海を傷つけるのは「ゴミ」だけではありません。たとえば、サンゴにロープを結びつけること、人間の食べ物を海に捨てること、海の生き物や自然物を持ち帰ることも、環境への影響を与えています。
だからこそ、お互いに学び合い、育て合う関係を築けたら素敵だと思います。ゲストがインストラクターを育て、インストラクターがゲストを育てる。そんな知識の共有が、より良い未来を作るのではないでしょうか。
PADIのミッションは「海を探求し、そして守っていくために、10億人のトーチベアラー(希望の灯を持った人)を育てる」ことです。私も、探求と保護の両方を大切にしながら、「知行合一(ちこうごういつ)」──知識と行動を一致させることを意識しています。
一緒に、人類と海がバランスよく共存・共栄できる未来を目指していきましょう。
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