1億年以上もの昔から、海を優雅に泳ぎ続けてきたエイ。その大きく美しい姿に魅了され、「いつか一緒に泳いでみたい」と憧れるダイバーも少なくありません。実際、エイとの遭遇は多くのダイバーにとって憧れの体験のひとつであり、世界中のダイビングスポットで人気を集めています。

しかし、エイについて語られるとき、必ずと言っていいほど聞かれるのがこんな質問です。

「エイって危険なの?」

テレビ番組で活躍したオーストラリアの自然研究家の故スティーブ・アーウィンの事故をきっかけに、エイに対して危険なイメージを持つ人もいるかもしれません。では、本当にエイは恐れるべき生き物なのでしょうか?今回は、エイにまつわる事実を見ていきましょう。


docile stingray glides through water

事実:世界中で記録されているエイによる死亡事故は、20件未満である

この数字を他の身近な例と比べてみると、その少なさがよく分かります。

  • アメリカでは、牛による事故で年間平均約20人が死亡
  • アメリカでは、ハチによる事故で年間平均約100人が死亡

では、エイは危険な生き物なのでしょうか?

確かにエイには毒針を持つ種類もいますが、人間を積極的に攻撃することはほとんどありません。実際にオーストラリアで1945年以降に記録されたエイによる死亡事故はわずか2件で、その中にはスティーブ・アーウィン氏の悲劇的な事故も含まれています。

つまり、ニュースなどで大きく取り上げられることはあっても、エイによる致命的な事故は極めてまれなのです。むしろ、ほとんどのエイはおとなしく、人間を避けて行動する生き物だと言えるでしょう。

参考記事:Are stingrays actually dangerous? 3 reasons you shouldn’t fear these sea pancakes


are stingrays dangerous?

事実:エイは本来、攻撃的な生き物ではない

エイは基本的に穏やかな性格で、人間に対して積極的に危害を加えることはほとんどありません。しかし、「危険がゼロ」というわけではなく、自分の身に危険が迫っていると感じたときには防御行動を取ることがあります。

エイの尾にある毒針(トゲ)は、獲物を捕まえるための武器ではなく、サメなどの捕食者から身を守るための防御手段です。そのため、エイがトゲを使うのは「追い詰められた」「踏まれた」「逃げ場がない」と感じたときがほとんどです。

スティーブ・アーウィン氏の事故事故についても、エイが意図的に人間を襲ったわけではないと考えられています。事故当時その場にいたカメラマンのジャスティン・ライオンズ氏は、エイがアーウィン氏の影を天敵であるイタチザメだと誤認し、防御反応を示した可能性があると語っています。

もちろん、海水浴中に砂の中へ潜っていたアカエイを踏んでしまい、トゲで刺される事故は世界各地で報告されています。しかし、その多くはエイから近づいてきたのではなく、人間側が気づかずに接触してしまったケースです。

つまり、エイによる事故の多くは「攻撃」ではなく、「防御反応」や「偶発的な接触」によって起こるものです。だからこそ、エイを必要以上に恐れるのではなく、その生態を理解し、無理に触れたり追いかけたりせず適切な距離を保つことが大切です。

stingray in sea grass

エイと安全に接するためのマナー

エイとの遭遇はダイバーにとって特別な体験ですが、野生動物である以上、適切な距離感とマナーを守ることが大切です。

  • 浅瀬では「シャッフル歩き」を心がける:アカエイなどのエイは、浅い砂地に身を潜めていることがあります。そのため、エイが生息している可能性のある海岸や浅瀬を歩く際は、「シャッフル歩行」と呼ばれる歩き方がおすすめです。足を高く上げて歩くのではなく、砂の上を滑らせるようにゆっくり進むことで、振動がエイに伝わり、人が近づいていることを知らせることができます。エイが先に気づいて逃げてくれれば、誤って踏んでしまうリスクを減らせます。
  • エイを囲んだり追いかけたりしない:ダイビング中にエイを見つけても、興奮して近づきすぎないようにしましょう。ゆっくりと観察し、大きな音を立てたり、必要以上に接近したりしないことが大切です。特に複数人で囲い込むような行動は、エイに強いストレスを与える可能性があります。海は私たちのフィールドではなく、エイたちの住処です。観察する際は十分な距離を保ち、エイが自由に移動できる空間を確保しましょう。
  • 触らない:これは当たり前ですが、野生のエイに触れることは避けましょう。触ろうとするとエイを驚かせてしまう可能性があるだけでなく、エイの体表を覆う保護膜を傷つけてしまうこともあります。「見るだけ」を心がけることが、エイにとってもダイバーにとっても安全で快適な接し方です。

エイを守るために私たちができること

エイについて語るうえで大切なのは、「危険な生き物」という誤解を正しい知識によって解消することです。2006年に起きたスティーブ・アーウィン氏の事故は世界中に大きな衝撃を与えました。しかし、その出来事から20年近く経った今でも、多くの人がエイに対して必要以上の恐怖心を抱いているのが現状です。

一方で、本当にエイたちを脅かしているのは人間の恐怖心ではなく、乱獲や生息地の減少、そして気候変動です。現在、世界には100種を超える絶滅危惧レベルのエイが存在するとされており、多くの種が個体数の減少に直面しています。エイは世界中の海洋生態系に広く生息し、海底の生物相を維持するなど、生態系のバランスを保つ重要な役割を担っています。もしエイがいなくなれば、その影響は海全体に及ぶ可能性があります。だからこそ、私たちダイバーにはできることがあります。

  • エイが本来どのような生き物なのかを周囲に伝える
  • エイと安全に接するための正しい知識を広める
  • 海洋保護の重要性を発信する
  • 海にやさしい行動を実践し、その輪を広げる

ダイバーは海の世界を実際に見ているからこそ、その魅力や大切さを伝えられる存在です。エイを正しく理解し、尊重しながら海と向き合う人が増えれば、必要以上の恐怖心ではなく、その美しさや生態の面白さに目を向ける人も増えていくでしょう。そしてそれが、エイたちがこれからも海を優雅に泳ぎ続けられる未来につながるのです。

spotted stingray on sandy sea bottom

著者について
Sophie Keningale は、ダイビングの魅力や安全に関する知識を発信するダイビングライター。パートナーのジェームズとともに、スペイン・グラン・カナリア島で Leagues Ahead Diving を運営している。

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