文:秋山 礼子(PADI Dive Against Debris SPインストラクター)
皆さんと同じように海が大好きな私は、特に環境に興味があります。
ダイビングのときだけでなく、普段の生活でもなるべくごみを出さないように気をつけたり、ごみを出すときもきちんと分別します。皆さんと同じように、飲み物はマイボトルに入れ、買い物のときはエコバッグを使っています。そもそも、使い捨てのものをなるべく使わないようにし、壊れたら捨てずに修理し、無駄なプラスチック製品を買わないように常々考えています。
そんな私が皆さんに伝えたいことは「海洋ごみについてもっと知って欲しい」ということ。
海洋ごみとは、海岸に打ち上げられた「漂着ごみ」、海面や海中を漂う「漂流ごみ」、そして海底に積もった「海底ごみ」のことを指します。すべてのごみの中でも多いのが、食品の容器や包装袋などのプラスチック製のもの。一度使っただけですぐに捨ててしまう、いわゆる「使い捨てプラスチック」のごみが多いのです。
2050年の海はプラスチックごみであふれ返るかもしれない
海にたどり着いたプラスチックのごみは紫外線によってだんだん小さく砕かれ(ベランダの洗濯ばさみがボロボロになるのも紫外線のせいです)、マイクロプラスチックになり、海を漂う間に有害な汚染物質を吸着します。これを誤って食べた海洋生物に汚染物質を摂取させ、悪影響を及ぼします。さらにその魚介類を食べる人間にも悪影響が及んでしまうのです。
このプラスチックごみの数は、このままだと2050年には地球上の魚の数を上回ると言われています。海はプラスチックごみであふれ返ってしまうかもしれません。海に流出したプラスチックごみの年間流出量の割合を見ると、日本は全体で30位、先進国では20位のアメリカに次ぐ2番目の多さであることもわかっています。
海のごみは街からやってくる
「海のゴミの8割は、街から来ている*」という事実をご存じでしょうか? ポイ捨てごみは排水溝から川に出て、海にたどり着きます。少しのポイ捨てごみが積み重なって、うんざりするほどの量になって、そして、それは繰り返されてしまいます。海へ出たごみは分解をしながら永久に海を漂ったり、魚に食べられ、生態系に影響を与えたりします。海岸に落ちているたばこのフィルターやペットボトルなどの多くは街で捨てられ、海に辿りついたごみなのです(出典:UN World Ocean Assessment(Allsopp,et al.,2006))。
ですので、海のごみ問題は海の近くに住んでいたり、私たちのような海をフィールドとして活動しているダイバーやスノーケラーだけの問題でもないのです。
海のごみに立ち向かおう!
Dive Against Debris(ダイブ・アゲインスト・デブリ)
このような海洋ごみ問題に対処するために、PADIには「Dive Against Debris」というスペシャルティ・コースがあります。このコースでは水中のごみを回収し、どんなごみがあったのかデータを集計し、PADIにその報告をします。報告したデータは、PADI AWAREで集計され、増えている海洋ごみの調査を世界規模で行ない、その対処を検討するのに役立っています。
私はこのコースのインストラクター資格を持っており、たくさんのダイバーに積極的に教えています。
私たちが遊ばせてもらっているフィールドである「海」。つまり海におじゃまさせてもらっているのです。
その海にごみが落ちていたら拾うでしょうし、そもそも海にごみを捨てるなんてもってのほかですね。
「Dive Against Debris」コースは、そんな基本的なことも教えてくれるコースです。
水中のごみの回収はダイバーしかできない!
普段の生活から出たごみでも、このごみは燃やすごみか燃えないごみなのかで大きく分けるでしょう。水中にあるごみは自然にとってよいものなのか、悪いものなのか、拾う必要があるのかで分けます。例えば海辺にある椰子の実が海に落ちた…通常は海にないものなのでゴミとして拾いますか?これは拾わなくても大丈夫です。自然に還るし、水中の生態に悪影響がないと判断します。
コーティング加工された積み木が落ちていたらどうしますか?同じような素材でも自然に還らないようなものは拾います。では、積み木にフジツボが付着していたら?水中の環境の一員として役立っていたらゴミではなくなります。自分が危険となる鋭利なもの、有害なもの、大きいものはすぐに拾うべきではない!など、このような判断はコースの中で学んでいきます。
コースに満足に修了するには正しい知識と技術が必要になりますが、難しく考える必要はありません。
すべてインストラクターがお教えします。
今までの経験や得意分野が生かせる!
単にごみを回収するばかりではなく、水中カメラで記録したり、あちこち動き回るのにナビゲーションしたり、古タイヤや自転車などの少し大きめのものを引き上げるためにサーチ&リカバリーのテクニックを使ったり。水底の砂を巻き上げないようにごみを回収するために、きちんと中性浮力をとるなどのスキルも役に立ちます。
通常のダイビングと同じようにバディ・システムが基本ですが、チームを作ってリーダーと各々の役割を担当することで得意分野ごとにチーム分けをしてもよいかもしれません。
水中に長らく放置されたごみだと思っていた空き瓶が魚の住み家になっていたり、サンゴが付着しているのも見ることがあります。これは小さな魚礁です。ホッコリする発見もありますよ!
やっぱり海が好き!
このコースの最大のミッションは、エキジット後にごみの集計をしてデータを作成することです。参加者みんなで協力して、ごみの種類の判別と数を数えてPADIへ報告します。
この結果は世界中のPADIダイバーが活動してくれたデータが集まり、海の状態を把握する重要なデータとなります(世界中の集計はこちらをご覧ください)。
さらにこういった活動の画像をSNSなどで投稿することで、海を大切にしたいと思う人、普段の生活でできる環境意識を高める人と仲間を増やせるかもしれません。
リゾートでのダイビングもよいですが、近場でホームグランドを作って仲間と水中環境を観察しながら環境によい活動するのも楽しいです。
ダイバーだからこそできる水中のごみ回収と、今後の海の健康を守ること。9月の18日(土)から16日(日)までは「AWARE WEEK」という、PADI AWAREによる世界的なクリーンナップ・イベント強化週間でもあります。
前述したように、海のごみは街からやってきます。このコロナ禍で行動制限もありますが、海に行けない人はまずごみの分別や身の回りのごみ拾いから始めるのもよいのではないでしょうか。
まだやっていないダイバーの方は、新しいことを始めませんか!?
一緒に海のごみに立ち向かいましょう!