海の中という非日常世界を楽しむことができるダイビングですが、気をつけたいのが事故について。残念ながら毎年ダイビング事故は発生しており、ニュースなどで大きく取り上げられることもあります。ダイビング人口や実施回数などから考えると、他のレジャー・スポーツと比べて、決して事故率が高いレジャーというわけではないのですが、水中という特殊な環境ゆえ、事故が起こると死亡・行方不明につながりやすい傾向があります。以下に紹介する、海上保安庁が発表した「令和5年 海難の現況と対策~大切な命を守るために~」のデータを元に、海の事故の傾向と対策について考えてみましょう。

日本でのダイビング事故の現状

海上保安庁が発表した「令和5年 海難の現況と対策~大切な命を守るために~」によると、2023年のダイビング事故は48件で、過去10年では2017年に次いで2番目に多い数字となっており、事故数は増加傾向にあります。コロナ禍の行動制限もあってダイビング機会が減少していたであろう2020年、2021年に比べ、自由にダイビングができるようになったことから、ダイビング機会の増加と、コロナ禍でダイビングから遠ざかっていたブランクダイバーの復帰が、ダイビング事故の増加につながっているのではないかと考えられます。死者・行方不明者数も16名と前年より増加。こちらも2018年、2020年の17件に次いで多い数字となっており、事故数を減らすことはもちろんのこと、発生したトラブルを早めに解決していかに重大事故に発展させないかということも重視したいポイントです。

事故内容別の事故者数では「溺水」が最も多く19人。ダイビング事故の多くは水面で起こっていると言われており、エントリー・エキジット周辺で特に注意が必要なことをうかがわせます。次いで多いのが「病気」の17人。前年の8人から増加しており、右の「年齢層別事故者数」のグラフを見てもわかるように、40代以上の中高年の事故者の割合が多いことから、日頃の体調管理や持病のチェックについても十分に注意し、ゆったりと無理のないダイビングを心がける必要があることがわかります。また、前年は3人だった「帰還不能」が2023年は13人と大きく増加しており、ニュースでも取り上げられましたが、ドリフトダイビングによる漂流事故がここに含まれています。

出典:令和5年 海難の現況と対策~大切な命を守るために~(海上保安庁)

※ページ内のグラフは上記資料のデータを加工して作成したものです


ダイビングで起こる代表的なトラブルと対処法

・浸漬性肺水腫(しんしせいはいすいしゅ)

DAN Japan会報誌「AlertDiver Monthly vol.29/201911」の中で、浸漬性肺水腫は以下のように説明されています。
(以下引用)「ダイビングではさまざまなストレスが肺にかかってきますが、人は水に浸かること(浸漬)により手足の血液が体の中心に移動して心臓や肺がうっ血するという、生理的な特性を持っています。肺にシフトした血液により毛細血管内圧が上昇し、内皮細胞を圧迫伸展させ、血液中の水分が間質に出てくると肺水腫という状態になります。こうなると、肺胞ー毛細血管関門が厚くなって酸素が通りにくくなり、程度が進めば、血液に必要な酸素が届かなくなります。間質に溢れた水分は血管周囲のみならず気道周辺にも及ぶため、気道腔内が狭くなって呼吸しづらくなります。」(引用以上)
この症状は中高年ダイバーや高血圧の方に比較的起こりやすく、これまで「溺水」と判断されたダイビング事故の原因の多くは浸漬性肺水腫に起因するものであった可能性が高いと言われています。
日頃の体調管理、低い水温に対してドライスーツを着用するなど、様々な予防法がありますが、高血圧の持病があったり、久しぶりのダイビングをされる中高年ダイバーの方は一度医師の診断を受けらえれることをお勧めします。
なお、強い息苦しさの症状は酸素分圧が下がる浮上中や安全停止中に発生する傾向があります。こうした時はバディやガイドに「体調が悪い」のハンドシグナルで伝え(下写真)、バディと一緒に慎重に水面へ浮上して安全を確保しましょう。あるいはバディが「エアがない」のサインであなたに息苦しさを伝えてくる場合があります。あなたのオクトパスをバディに咥えさせて残圧計を確認し、まだエアが残っている場合は浸漬性肺水腫の可能性がありますので、一緒に慎重に水面まで浮上して助けを求めましょう。

a diver communicating his illness with hand signal

漂流

ドリフトダイビングだけでなく、どんなダイビングでも潮の流れによっては思いも寄らない場所まで流されてしまうことがあります。浮上してすぐにボートが見えない場合、あるいはエキジット地点まで戻れない場合は、水面でグループでまとまり、迎えが来るのを待つのが基本。シグナルフロートを上げるなどすると、捜索者から見つけられやすくなります。万が一、漂流してしまった場合は、不安になりがちですが、グループで声をかけ合いながら元気づけ、しっかりと浮力を確保すること。夜間の捜索にはフラッシュライトやカメラのストロボなども役立ちます。

PADI Drift Diver

エア切れ

本来はエアがなくなる前に気づいてダイビングを終えるべきですが、万が一なくなってしまった場合は近くにいるバディに「エアがない」のハンドシグナルを出して、オクトパスなどの予備の空気源でエアを分けてもらいましょう。もしもバディが近くにいない場合は、とにかく近くにいるダイバーにハンドシグナルを出してエアをもらうこと。それも無理なようなら、オープン・ウォーター・ダイバー講習で学んだ緊急スイミングアセントで浮上するしかありません。「うー」と声を出すなどして息を少しずつ吐きながら、ゆっくりと浮上しましょう。

a diver doing emergency swimming ascent

パニック

久しぶりのダイビングなどでは、ダイビング中に突然不安を感じることがあります。これはパニックの初期症状。まずは動きを止めて大きく深呼吸をし、落ち着くことを心がけましょう。岩などに掴まるか、ない場合はバディやガイドにつかまって静止します。大きく吐いて大きく吸うのを何度か繰り返し(最初に息をしっかりゆっくり吐くことが重要です)、気分が落ち着いてくればOK。不安が解消できない場合はダイビングを中止しましょう。

迷子

海の透視度が悪かったり、水中撮影や生物の観察に夢中になりすぎたりすると、気がつくと「ガイドやバディの姿が見えない」なんてことも。はぐれないように常にガイドやバディの位置を確認しておくことが大切ですが、万が一はぐれてしまったときは「まずはその場で周囲を一分間見回して探してみて、見つからなければ水面に浮上」という基本を実践しましょう。水中でむやみに探し回るのは、予定のルートから外れてしまって、探しに戻ったガイドやバディから見つけてもらえなくなったり、エアを無駄に使ってしまい、より大きなトラブルにつながることもあります。ダイビング前にバディ同士で、はぐれてしまったときの手順を打ち合わせしておきましょう。

減圧障害

ダイビング中に体に溶けた窒素が、減圧のときに気泡化して組織が圧迫され、しびれや痛みなどの症状を伴うのが「減圧症」です。動脈に気泡が詰まり、血液の流れが遮断されたために生じる「動脈ガス塞栓症」と合わせて、「減圧障害」と呼ばれます。減圧症の症状が出た場合は、早い時期での再圧治療が非常に重要。減圧症の症状は8割以上がダイビングの直後~6時間以内で起こりますが、ときには48時間以上後に発症することもあります。インストラクターに相談するか、再圧医療治療機関などに連絡を取り、適切に対処しましょう。

寒さ

水中では空気中の約20倍もの速さで体から熱が奪われるため、水温の低い海ではもちろんのこと、南の島の温かい海でも長く潜っていると寒さを感じることがあります。そのまま潜っていて、震えが止まらない状態になると、非常に危険。低体温症(ハイポサーミア)となり、意識がもうろうとしてくることも。震えが止まらなくなったら、ガイドやバディにすぐに伝え、浮上すること。すぐに温かいシャワーを浴び、ストーブなどにあたって、できるだけ早く体温を上げましょう。

器材の故障

マスクやフィンのストラップが切れてしまったり、レギュレーターがフリーフローしてエアが出っぱなしになってしまったり、BCに給気されっぱなしになったりと、ダイビング中にはさまざまな器材トラブルの可能性があります。ただ、そのほとんどは日頃からきちんと器材をメンテナンスし、ダイビング前にチェック&適切なセッティングを行ない、正しい使い方をすれば防げるもの。また、万が一トラブルが発生しても、Cカード取得講習で習得した知識・スキルを使えば難なく対処できるはずです。慌てずに落ち着いて対処しましょう。


トラブルは予防ができます!

ダイビング事故の多くは事前の予防や、トラブルの素早い対処で防げるもの。普段から予防法や対処法をしっかりと頭の中に入れておき、いざというときのシミュレーションをしておくなどして、慌てず冷静に対処することが大切です。オープン・ウォーター・ダイバー・コースでも基本的なことは教わりますが、EFR(エマージェンシー・ファースト・レスポンス)やレスキュー・ダイバー・コースを受講すれば、さらに安全にダイビングを楽しむための知識やスキルを学べます。

せっかくのダイビングを気持ちよく楽しむために、皆さんも高い安全意識を持ってダイビングを楽しんでくださいね。

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