「第30回東京国際映画祭」の特別招待作品として上映され、大いに注目を集めたWOWOWオリジナルドキュメンタリー『ドルフィン・マン ~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』(特別試写会の模様はこちら)。その上映に合わせて来日したレフトリス・ハリートス監督にインタビューを行ないました。なぜこの作品を撮ったのか、監督が感じたジャック・マイヨール像についてなど、いろいろと伺いましたので、ぜひご覧ください。

聞き手/鴫谷隆(PADIアジア・パシフィック・ジャパン)

ジャック・マイヨールの本当の姿とは-レフトリス・ハリートス監督インタビュー
レフトリス・ハリートス監督

本日はお忙しい中、インタビューに時間をとっていただいてありがとうございます。

レフトリス監督-まずは今回の訪日に関して、PADIアジア・パシフィック・ジャパンからもサポートをいただき、大変感謝しています。海を愛するたくさんの方に、今回の作品を見ていただければと思っています。

なぜ今回の作品『ドルフィン・マン』を撮ろうと思ったのですか?

レフトリス監督-最初はギリシャの海綿(スポンジ)を取るダイバーについてのドキュメンタリー映画を撮ろうと思っていたのですが、資金的に難しく、実現しませんでした。ただ、その取材中に、ギリシャやイタリアのダイバーにいろいろと話を聞いていた時に、ジャック・マイヨールの名前がたびたび出てきて、彼の素潜りのテクニックを参考にしている人がとても多かったんです。彼はとても著名な人物ですが、生前に撮られたフィルムはたくさんあるのに、彼の死後に作られたものはありませんでした。なので、彼のフィルムを作るのにちょうどいいタイミングなのではないかと思ったのです。

この作品を作る前と作った後で、監督のジャック・マイヨールに対する印象はどう変化しましたか?

レフトリス監督-フランスや日本と違い、ギリシャではそれほどジャック・マイヨールは有名ではなかったので、私自身も映画『グラン・ブルー』でのジャック・マイヨールの印象ぐらいしかありませんでした。ところが、取材をスタートしてみると、実際のジャック・マイヨールは映画『グラン・ブルー』で描かれている姿とはかなり違うと、すぐにわかりました。そこから、いろいろなエリアで、ジャック・マイヨールに所縁のあるさまざまな人に話を聞いていきながら、徐々に理解を深めていきました。

私が感じたのは、彼はいい面も悪い面も、さまざまな側面を持った人物だということです。人々に対して海への意識を呼び覚ますなど、ポジティブな影響を与えた人でありますし、一方でプライベートでは非常に問題があった人でもあります。取材を進めるごとに、彼のことが好きになったり、嫌いになったりしました。ただ最終的に日本に来たときに、彼が自然を愛していたことや、日本のフリーダイバーから崇拝の対象となっていて、死後15年、映画『グラン・ブルー』から30年経っているにもかかわらず、今でもその名前が広く知られているのを見て、やはり彼はカリスマ的な存在なのだなと実感しました。

日本でも今、フリーダイビングへの注目が高まっており、PADIでも2016年よりフリーダイバーコースがスタートしています。私もフリーダイビングをするので、その視点からもとても興味深い作品だったのですが、監督自身はフリーダイビングやスクーバダイビングの経験はあるのでしょうか?

レフトリス監督-いいえ、私はまったくフリーダイビングやスクーバダイビングの経験はありません。スノーケリングで泳ぐか、ビーチでのんびりとくつろぐかですね(笑)。ギリシャではフリーダイビングはとてもポピュラーで、日本はもちろん、世界的にフリーダイビングの注目度は高まってきています。私がこの作品で表現したのは、フリーダイビングにはスポーツとしてだけではない、さまざまな楽しみ方のスタイルがあるということ。今回の作品では多くのフリーダイバーにも登場してもらい、彼らが泳ぐ映像がありますが、実はどれもが異なるスタイルになっているんです。モノフィンだったり、裸足だったり、スーツを着ていたり、水着だったり。深く潜っていくシーンもあれば、海の浅瀬の明るい場所を泳いでいるシーンもあり、フリーダイビングのさまざまな側面を表現しています。共通しているのは「自然との融合」と「海と接することの楽しさ」。この作品を見た人に「海へ行こう」と感じていただけたらいいですね。

そうですね。今回の作品を見て、ジャック・マイヨールが本当はどんな人物だったのかを知ると同時に、人と海とのかかわりについても非常に考えさせられました。監督は今回の作品に、人と海のかかわりについて、どんなメッセージを込めたのでしょうか。

レフトリス監督-実は今回の作品に私個人のメッセージは入れないように心がけました。そのためにこの映画をまとめるのに非常に苦労したのですが、見た人が何を考えるか、それはその人たちの受け取り方によって違っていいと思うんですね。いろいろな要素が入った映画なので、エンターテインメントとして非常におもしろかったという感想を持つ人もいるでしょうし、人と自然のかかわりについて考える人もいる。一般の人とフリーダイバーでは受け取り方に大きな違いがあるかもしれませんし、国民性によっても異なると思います。実際、これまでにさまざまな国でこの作品を上映し、その反応はさまざまでした。初めて公開したバリでは「これは3D作品にすべきだ!」とか(笑)。それでいいんです。私の個人的なメッセージは前に出ないようにしておいて、ジャック・マイヨールという人物のストーリーを客観的に伝える中で、見る人が何かを感じたか。できれば、それをフィードバックしてもらえる機会があるとうれしいですね。

今回の撮影でいろいろな国・エリアを訪れたと思いますが、特に印象に残っている場所はありますか?

レフトリス監督-日本ですね。やはりジャック・マイヨールの人生を語るうえで、日本はなくてはならない場所でした。もちろん、「ブルーホール」だったり、ヨガの取材をしたインドなど、他にも印象的な場所はたくさんあります。ただ、彼の人生のさまざまな部分が日本に集約されている気がするのです。人間と海についてのかかわりなど、彼は日本に来てから非常にポジティブな側面が多く見られます。それは日本という国が彼をそうさせたのかもしれません。私が今回日本を訪れ、さまざまな人と接する中でも、他者に対する尊敬の心をいうものを強く感じました。それは私が訪れた他の国ではあまりなかったものです。今回の作品に登場するフリーダイバーの中にも、ジャック・マイヨールのように日本の「禅」を取り入れたことで、人間として大きく成長できたという人もいました。今回は撮影では日本が最後の場所だったのですが、ここでの取材を通して、それまでに欠けていたものの全体が埋まり、ジャック・マイヨールについての理解がより深まったと思っています。映像では、日本について触れているのは最後の約10分ですが、この映画にはなくてはならない部分です。

最後に、この記事をご覧になっている皆さんに一言メッセージをお願いします。

レフトリス監督-まずは、今回の撮影を通して出会ったすべてのダイバーに感謝したいと思います。ダイバーの皆さんは海に対して非常にオープンな心を持っています。もちろん、競技として取り組むフリーダイバーもいますが、それ以外の部分で楽しんでいる人もとても多く、海をとても愛し、海をとても尊敬していると感じています。ジャック・マイヨールもとても海を愛した人でした。そのジャック・マイヨールに尊敬の念を抱いている日本の皆さんに、フリーダイビングをやっている人にも、フリーダイビングを知らない人にも、ぜひこの作品を見ていただきたいと思います。そして、今回の作品を見た感想をぜひ教えていただきたいです。

本日はありがとうございました!

ジャック・マイヨールの本当の姿とは-レフトリス・ハリートス監督インタビュー
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WOWOWで『ドルフィン・マン』の放送決定!

WOWOWオリジナルドキュメンタリー ノンフィクションW 『ドルフィン・マン ~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』が11月26日(日)20:30より、WOWOWプライムにて放送されます。また、同日の18:00からはWOWOWプライムにて『グラン・ブルー(オリジナルバージョン)』も字幕版にて放送。ぜひご覧ください。

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