矢部氏は、東京海洋大学在学中にダイビングインストラクターとしてのキャリアをスタート。PADI教育システムへの強い興味を持っていたことから、27歳でインストラクターを育成できるPADIコースディレクターの資格を取得しました。現在、東京と千葉に店舗を構えるエムズダイビングアドベンチャーの代表として、都市型のダイビングショップとスクールを運営し、幅広いPADIコースや日本全国・海外のダイビングツアーを提供しています。

2010年頃からは国外のマーケットへのアプローチを進め、日本のダイビングスポットを海外のダイバーたちに魅力的に紹介する方法を模索しています。日本にはポテンシャルの高いダイビングスポットがいくつもありますが、それを海外のダイバーたちにアピールし、ダイビングデスティネーションとして確立していくには道半ば。そのような中で、矢部氏は日本でのダイビングをどのように海外のダイバーにアピールし、引きつけようとしているのか、その戦略と情熱に迫ります。


Q. なぜ外国人ダイバーへのアプローチに力を入れ始めたのですか?

観光で来日した方の多くは、日本の食や文化、観光名所などを求めてやってきて、東京や大阪といった都心部のいわゆる”ゴールデンルート”のエリアに滞在していますが、その機会にさらに日本の海に魅力を感じ楽しんでもらうことができれば、私たちのダイビング業界も発展し、ダイビングスポットがある地域経済にも良い影響を与えられると信じています。国際的なマーケットに取り組むことは、ただのビジネスチャンスとしてだけではなく、海の素晴らしさをより多くの人に伝えることはインストラクターとしての大きな使命でもあります。


Q.  外国人ダイバーにどのように日本でのダイビングを楽しんでほしいと思っていますか?

正直に申し上げると、やはり海外のビッグスポットと呼ばれるようなダイブサイトに比べると、私が主にフィールドとしている伊豆の海は、華やかさだったりインパクトは劣ってしまうと感じています。だからこそ、ダイビングの休憩中には積極的にコミュニケーションを取り、日本での旅行そのものを楽しんでいただけるよう努めています。具体的には、地元の新鮮な食材を使った美味しい料理や、リラックスできる温泉を紹介することです。

結果として、今後ダイビング旅行先を選ぶ際に総合的な判断で「それなら、日本にしよう」と思っていただけるような体験を提供することを目指しています。


Q. 海外に日本の海やダイビングの魅力を伝えるために行っていることは何ですか?

地道ではありますが、来日されたダイバー一人ひとりにSNSでのシェアや口コミをお願いしています。この小さなお願いが、大きな成果を生んでいると実感しています。

そこには、なによりもおもてなしにあふれた親切・丁寧なサービスが評価されているという背景があります。しかし、「外国人だから」と特別なサービスをしているわけではありません。これまで通り日本人ダイバーに提供してきたサービスを英語で行うだけです。ダイビングを旅行中の単なるアクティビティとして海を楽しむだけでなく、日本の文化やおもてなしの精神を体験する一環として捉えてもらえるよう努めています。

例えば、日本スタイルのファンダイビングや講習では、多くのインストラクターがスレートを使って、水中でも丁寧にコミュニケーションを取ってくれますよね。実は、これは海外ではかなり特殊です。水中での明確なコミュニケーションは、安心感をもたらしてくれます。水中での状況をリアルタイムで理解できることは、彼らのダイビング体験をより一層楽しませる要因となっていると信じています。

このシンプルなアプローチが、多くの外国の方々から良い口コミを得る要因となり、日本のダイビングフィールドを広く知らしめることに繋がっていると思います。


Q. 言葉の壁を感じたことがあるかと思いますが、その中でコミュニケーションを工夫したり、乗り越えたりした経験があれば教えてください。

私は外国に住んだこともなく、あくまでも日本で独学で身につけてきた英語力です。色々な英語学習をトライしてみましたが、なかなか長くは続かず挫折の連続でした。

ぜひ、これから英語を使って仕事をしたいと夢見ている方に伝えたいことがあります。それは、私たちが身につけなければいけないのは「英会話」ではなく、「英語でコミュニケーションをとること」ということです。これは似て非なるものです。日々、どうしても伝わらない・わからないという壁に当たります。私はその都度「今の表現はなんなの?」と質問をするようにしています。会話から逃げないことです。そうすることで大半の外国の方は言い回しを変えてくれたり、ゆっくりと強調したりしてくれるのでそこで一つ会話が生まれ、理解しようとしている姿勢、伝えようとしてくれる姿勢が向き合うので非常に良い関係が築けます。

これは「水中での会話」にすごく似ていますね。ダイビングの魅力の一つは、「スムーズに会話できない」ことだと思ってます。スムーズに会話できなくても、それでも相手が伝えようとしていることをなんとか理解しようと努める関係、そこがバディスポーツの魅力、楽しさだと考えるからです。


Q. 今後より多くの外国人ダイバーに日本の海を楽しんでもらうためにどのような展望や計画をお持ちですか?

まず、海外で開催されるダイビング関連のエキシビションに出展することに挑戦したいと思っています。多くの外国人ダイバーは、日本でダイビングができることを知っていますが、その魅力を自ら調べて訪れる段階にはまだ至っていないように感じます。そのため、現在は日本各地の魅力を積極的にアピールすることが重要だと考えています。

一方で、日本のダイビング業界は、外国人ダイバーを受け入れる体制が十分に整っていないという現状もあります。特に言語の壁や情報の不足が、外国人ダイバーの訪問を妨げる要因となっています。私自身や私のゲストだけでは広がりに限界があるため、業界全体がポジティブに外国人ダイバーを受け入れる体制づくりに貢献したいと考えています。

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