神奈川県横浜市で生まれ育ったロビンソンダイビングサービスのスタッフの戸田若奈さん。高校時代には“プールの授業がない”学校を選ぶほど、水に対する恐怖が強かったと言います。しかし、彼女は今、積丹や支笏湖をはじめとする美しい自然のある北海道で水中ガイドとして活躍しています。もともとダイビングとは無縁の生活を送り、障がい福祉支援業界で働いていた彼女が、なぜ人生を大きく転換し、ダイビングの世界へ飛び込んだのか。地元から遠く離れたこの地で彼女が感じた魅力、そして北海道の水中に込める思いについて伺いました。


 Q. なぜ北海道を活動の地として選んだのですか?

ダイバーとしての明確な転機は、2023年に初めて体験した流氷ダイビングです。ある程度の経験を積み、一人でなんでもできるような気持ちになっていた頃、器材を1人でつけることさえ難しく、歩いてエントリー口まで行くのもままならない、冷たさで思うように身体が動かず、悔しい思いをしました。そんな中でも、言葉にできないほど美しい流氷の下から見た景色と、現地スタッフの方々の迅速で的確なサポートに本当に感動しました。『自分もこの感動を伝える側、そして支える側になりたい』と思うようになったのは、間違いなくその瞬間でした。

2つ目の理由は、私の師匠であるロビンソンダイビングサービスのオーナー西村浩司さんとの出会いです。西村さんのガイドで潜った積丹・幌武意の海は、それまで見慣れていたはずなのに、まるで別の世界のように感じられました。豊富な知識と経験で生み出されるガイド力に驚かされ、『この人のもとでプロになりたい』と強く感じました。この出会いがあったからこそ、私は北海道の海で活動する決意を固めました。


Q. 戸田さんが伝えたい北海道ダイビングの魅力は何でしょうか?

北海道の海には、ソフトコーラルのような色彩や熱帯魚のようなカラフルな魚はいません。しかし、ここでは一年を通して、生命の始まりと終わりに触れることができ、力強さと感動的な物語が広がっています。「生きる」というそもそもの根源に溢れていることが最大の魅力です。例えば、春に広がる北海道特有の昆布は夏の終わりにはその役目を終え、命を終える。そして秋には、何年も大海原を旅したカラフトマスが知床の川に戻り産卵し、生命の最終章を迎えます。冬にはホテイウオが寄り添い守り続けて抱卵し、春を迎える頃には、その幼魚たちが水中に溢れ、ダイバーに新たな命の喜びを教えてくれます。

また、私がプロになるきっかけとなった流氷の知床は、ロシアから流れ着く流氷の最南端の土地で、流氷の最後の訪問地だと思っています。

あと、居酒屋でしか見たことのないホッケが金色の卵を守りながら悠然と泳ぐ姿を目にした時には、食卓への感謝の気持ちも新たに湧きました。私のような食いしん坊なダイバーにもオススメの海です。(笑)

A diver dives under drift ice and makes it look like it is supporting the drift ice.

Q. 北海道の地元の方々とのエピソードがあれば教えてください。

知床の流氷ダイビングはもちろん、積丹でのダイビングも、漁師さんや各所の施設の方々をはじめ、地域の方々の許可や全面的な協力なしでは実現できません。この地域を守り続けてきた方々の温かいサポートがあってこそ、今のようにダイビングが可能になっているのです。北海道に来てまだ3年目の私ですが、西村さんの隣にいると、彼が『その場限りではない誠意』をもって、地域の皆さんに対して長年信頼関係を築いてきたことが、私たちが安全にダイビング活動できる基盤になっていると強く感じます。その背中をしっかりと見て学び、私自身もゆくゆくは地元の方に「ロビンソンの若奈ちゃんが言うなら!」と言ってもらえるような、誠実な存在になりたいと心から思っています。


Q. また北海道のダイビングの魅力を伝える役割として、今後挑戦してみたいことは何ですか?

未来にわたり、北海道の海が地元ダイバーに大切にされ、愛され続ける基盤を築くことが私の目標です。この目標を実現するためには、これまで北海道の海を潜り続けてきたベテランダイバーに対して、専門性が高く、かつ活気に満ちたエンターテイメント性のあるガイドを提供し、彼らが引き続き海を楽しむことができる環境を整えることが重要だと考えています。

さらに、北海道の海の魅力をより多くの方々に知っていただくためには、若手ダイバーの育成にも力を入れていく必要があります。次世代のダイバーたちがアクティブに北海道の海に親しむことで、地域のダイビング文化が豊かに育まれると信じています。インストラクターとしてこれからはOWのプール講習の段階から「潜るって楽しい!」と思っていただけるような熱心かつ楽しい講習を目指して頑張っていきたいです。

Instructor and student divers are in the water up to their waists, doing the training.

Q. 地元を離れ、新しい挑戦を求める人たちにどのようなメッセージを伝えたいですか?

知り合いが一人もいない北海道でダイビングのキャリアを歩み始めましたが、今では地元よりも深いつながりを感じています。尊敬できる人々との出会いがあり、「ロビンソンのスタッフの若奈ちゃん」としての自分を作り上げてくれた地域の沢山の先輩方やゲスト様に出会うことができました。憧れだけでこの業界の扉を叩いた日から、出会った全ての人たちが「頑張れ!」「これから、よろしく」と暖かく迎え入れてくれました。

3年が経ち、振り返ってみると、いつの間にか多くの人々に囲まれ、気がつけばたった1人ではなくなっていました。海の世界では、想像以上に情熱的で優しい人々が多く、人情に溢れています。私もこのような先輩になりたいと思っています。

もし、これを読んでいるあなたが迷っているなら、どの地域でも、その土地を守ってきた人々があなたを歓迎してくれるはずです。必要であれば、私があなたを業界に迎える最初の一人になります。

Female instructor wearing a jacket and holding materials in her hand looking out to sea.
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