数多くのPADIインストラクターの中でも、インストラクター・コースを実施できる資格を持つのがPADIコース・ディレクターです。PADIコース・ディレクターは全世界のPADIプロメンバー人口全体の1%にも満たないPADIのトレーニング・システムに精通したプロフェッショナルであると共に、PADIの指導機関としての概念を体現する重要なロールモデルでもあります。
PADIコース・ディレクターになるためのプログラムであるCDTC(Course Director Training Course)は、年に2回開催されます。今回の開催地はマレーシアのコタキナバル。出願するインストラクターはコース実施経験や勉強会(セミナー)への参加だけでなく、海洋環境保全活動への貢献を証明し、厳正な選定プロセスを経たうえで、コースへの参加が認められます。候補生は、現地にて1週間にわたって、いくつもの課題を優秀な成績で合格することでPADIコース・ディレクターとしての資格を獲得することができます。
本レポートでは、CDTCの実際の様子をお伝えします。PADIコース・ディレクターを目指す方はもちろん、プロフェッショナルとしてのキャリアアップを考えている方にも、きっと役立つ内容になるはずです。
新コース・ディレクター誕生
世界19か国から集まった合計33名が無事にコース・ディレクターになりました。日本からは以下の3名がプログラムに参加しました。おめでとうございます!
- ダイビングスクール ココモ 福島 里穂様
- グランデ ポルポ 山田 朋法様
- PADI Asia Pacific Japan 北奥 慎也

新たな挑戦の始まり
数か月にわたる予習や、準備を終えた候補生は3月10日のスタートに向けて、ぞくぞくとマレーシア サバ州のコタキナバルに集結します。日本チームも深夜便でコース・スタートの2日前に現地入りし、準備と体調を整えます。
PADIコース・ディレクター・トレーニング・コース(CDTC)初日の午前8時。世界中から集まったインストラクターたちが一堂に会し、緊張感と期待に包まれながら、PADIスタッフのオリエンテーションでCDTCがスタートします。CDTC期間中、候補生は1チーム6-7名のグループに分けられてトレーニングに参加します。その後の自己紹介では、各国から集まった参加者が、それぞれのバックグラウンドや目標を語り合いました。多様な経験を持つ仲間との出会いに、すでに学びの予感が満ちています。


午後からは、さっそくトレーニングがスタート。プールでのレスキュー手順の確認や、評価のトレーニングがあります。

夕方までのトレーニングが終わり、初日の締めくくりには、ソーシャル(歓迎会)が開催されます。リゾートのビーチ沿いでドリンクや軽食が振舞われ、候補生同士チームの分け隔てなく交流し、緊張感が連帯感に変わる時間です。

限定水域評価トレーニングと指導法の深化
2日目も早朝からスタート。リゾート内のプールで限定水域の評価トレーニングが行われ、正確なスキル評価や適切なフィードバックの方法を実践的に学びました。午後は、評価のトレーニングやワークショップの実施方法についてのセッションが続き、インストラクター候補生の主体的な学びを促す指導法を深く理解する機会となりました。PADIの教育システムでは、知識の伝達だけでなく、学習者が自ら考え、応用できるよう促すことが重要視されています。そのため、単なる講義形式ではなく、インタラクティブなワークショップの進め方を学び、どのように参加者の理解を深めるかがポイントとなります。プログラム中盤では、リゾートからパワーボートで10分ほどのMamutik島に渡り、海でのセッションに参加します。CD 候補生の皆さんは強い日差しにも負けずに屋外でスキルの実施方法を確認していました。


ビジネス視点の習得とマーケティング戦略の実践
CDTC中でも特に印象的なのが、グループに分かれて取り組むマーケティング・プレゼンテーション課題。PADIコース・ディレクターは、単に優れた指導者であるだけでなく、ダイブセンターの経営やプロモーションにも精通している必要があります。マーケティング課題を通じて、参加者は「良いプログラムを作ること」と「それを多くの人に届けること」は別のスキルであり、両方が不可欠。CDTCは、ダイビングのプロフェッショナルとしての総合力を磨く場です。その中盤におけるマーケティング課題は、まさに「伝える力」と「経営視点」を鍛える実践的なセッションでした。




卒業パーティー:学びの集大成と新たなスタート
無事に7日間のプログラムを修了した候補生には、卒業パーティーでコース・ディレクターの認定証が渡されます。ひとりずつ修了証を受け取るたびに、仲間から大きな拍手が送られ、これまでの努力が報われた瞬間でした。記念撮影では、笑顔の中にも「ここからが本当のスタートだ」という意気込みが感じられました。夜には、これまでの努力を称え合う打ち上げが開催され、各国から集まったインストラクターたちがリラックスした雰囲気の中でお互いを労いました。「これからどんなインストラクターになりたいか」「自分のダイブセンターでどんなことを実現したいか」そんな熱い話が尽きることはなく、CDTCで築かれた絆の強さを改めて感じる時間となりました。


インストラクターを育てる立場としての責任
PADIコース・ディレクターは、単なるインストラクターではなく、他のインストラクターを指導し、育成する立場にあります。そのため、指導法の熟練度や業界の動向に精通しているだけでなく、次世代のダイビングインストラクターたちに正しい知識と技術を伝え、育てる責任があり、ダイビング業界全体の教育水準を向上させる重要な使命を担っています。その意味では、コース・ディレクターとしての立場は、ただの教育者を超え、ダイビング業界全体の発展に貢献する役割を果たしているのです。さあ、次はあなたの番です。PADIコース・ディレクターとして新しい挑戦を始め、世界中のダイバーたちに素晴らしい経験を提供してみませんか?