PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースでも習う「中性浮力」。中性浮力は多くのダイバーが難関だと感じるスキルのひとつです。

そもそも、なぜ中性浮力は大事なスキルなのか…自分自身のダイビングの安全性や快適さの向上などが第一に挙げられると思いますが、今回はちょっと考え方を変えてみましょう。

少しかしこまったレストランを想像してください。おしゃれな照明、美しい花の装飾、磨き上げられた銀食器、フォーマルな服装の人ばかりの空間に、一人の客が入ってきて他のお客の足を踏んづけたり、花瓶を落としたりしています。しまいにはきれいな女性客にカメラを向けだし、それを嫌がった女性客がお店を飛び出してという始末…。

こんなお客、絶対嫌ですよね。

これはダイビングにも通じることです。 私たちダイバーは、海のゲストです。 そして中性浮力は「よいマナー」に当たります。ダイビングの際、自分の行動に細心の注意を払い、海の環境を守ることは、自分とバディに恥をかかせない最低限のマナーです。

皆さんの悩みを解消するため、アメリカのPADIマスター・スクーバ・ダイバー・トレーナーのMegan Dennyさんが中性浮力の秘訣を伝授します!ぜひ参考にしてくださいね。


秘訣①:適切な量のウエイトを装着

ウエイトが多すぎると、常に浮力を調整する必要があり疲れやすくなります。反対に少なすぎると沈むのが難しくなることも。以下の手順で適切なウエイトを確認しましょう:

  • 装備をすべて装着した状態で、通常の呼吸を続けながら垂直に浮きます。目の高さが水面と一致する程度が理想です。
  • ダイビングの場所やスーツの種類(ウェットスーツかドライスーツか)、シリンダーの大きさや種類(アルミかスチールか)などによって調整が必要です。

私がダイビングを始めたばかりの頃は、うまく沈むためにウエイトをたくさん付けてしまい、いざ深いところまで行くとオーバーウェイトになったことが多々ありました。


秘訣②:リラックスしてゆっくり均等に呼吸する

肺はもともと体に備わっている浮力調整ツールです。BCDに頼りすぎないようにし、呼吸で微調整する練習をしましょう。ゆったりとした呼吸を心がけ、水中での安定感を高めます。私がダイビングを始めたばかりの頃は、緊張でよく無意識のうちに息が浅くなっていました。しかし、しっかり息を吐き切らないと、沈みにくくなってしまいます。そのため多めのウェイトを付けていましたが、そうすると中性浮力がうまくとれなくなるという悪循環に陥っていました。ダイビングの際、もし慣れないギアを付けた上に緊張していたら、うまく中性浮力をとるのは難しいでしょう。 そんなときは、リラックスして長めの呼吸をしてみてください。


秘訣③:ウエイトの位置と配分を決める

自分に最適なウエイト配置を見つけることは、スムーズで快適なダイビングを実現する鍵です。ウエイトの位置が偏ると、姿勢が崩れやすくなります。例えば、腰周りや足元に過剰な重さが集中すると、水平姿勢を維持するのが難しくなることがあります。

ウエイトとシリンダーの位置を適切に調整するためには、自分に合ったトリム(Trim)を見つける必要があります。「トリム」とは、水中での体のバランスや角度を指します。例えば、足が低くなる場合は、頭に近いほうにウエイトを置いて調整します。 正しいトリムを維持することで、より効率的に泳ぐことができ、エア消費量の削減や疲労の軽減にもつながります。

ドライスーツ着用時は、ウエットスーツの時よりも多くのウエイトが必要です。この場合、ウエイトベルトやアンクルウエイトの他に、ウエイトベスト、BCDのウエイト用ポケットなどを活用して、重さを全身に分散させるとよいでしょう。また、1kg玉や2kg玉といった異なる重さのウエイトを使い分け、可能な限り左右のバランスを整えるようにしましょう。


秘訣④:プロから教わる

正直言って、私は長い間中性浮力に悩まされていました。 しかし実際のところ、中性浮力はそれほど難しいスキルではありません。

PADIダイブマスターだった頃、ピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー・スペシャルティ・コースのアシスタントを担当しました。 そこではたくさんのニューダイバーが、わたしが何ヶ月もかけて取得したスキルを、ひとつの週末で習得していました。 また、多くのダイバーが半日のプール講習で大きい上達を見せていました。

中性浮力をとるためのテクニックはオープン・ウォーター・ダイバー・コースでも学びますが、このコースでは、タンクやスーツの種類ごとにウエイト量を調節する知識から、BCDや呼吸による浮力コントロールのコツまで、より詳しくマスターし、水中で思い通りにピタッと静止することができるようになります。

講習では、PADIインストラクターが、適正なウエイト量と配置を教えてくれます。 すべてのウエイトをウエストに付けるダイバーは少ないので、タンクウェイトや、アンクルウェイトなどが必要になるかもしれません。 体組成と好きな体勢(縦の体勢・横の体勢)に基づいて、ウエイトの正しい配置を見出しましょう。

もちろん中性浮力の練習も大切です。 中性浮力のコツを掴んだあとは、フラフープをくぐったり、海底に触れず物を投げたり、さまざまなゲームを楽しみながら練習をします。


秘訣⑤:とにかく潜る!

私の場合は、40ダイブを超えたとき、やっとダイビングに慣れ始め、少な目のウェイトでも潜れるようになりました。 そうすることで、水中での滞在時間も長くなりました。

そして40ダイブを迎えた頃、自分の器材を買いました。 どれくらいのウエイトが必要か、どこに配置すべきか、はっきりと判断ができるようになりました。 その結果、やっと夢に見ていた「アラジンのジーニーの浮遊感」を経験することができたのです。


最後に

最後に、先ほどのレストランの話に戻りましょう。実はあのおかしなお客は気になっている女性に良い印象を残したかっただけなのです。彼が無礼な行動をとってしまったのは、緊張とその環境に慣れていないことが原因でした。 彼はルームメイトから靴とスーツ(自分よりも大きめのサイズ)を借り、普段しているメガネを外しました。そのため、視界がぼやけ、その上緊張で震えていたので、女性の前でとてつもない失態をしてしまったのです。

冒頭での述べたようにダイビングもこれと同じです。慣れない環境に飛び込むと、緊張や不安、そしてスキル不足が原因で、自分の行動が周りにどんな影響を与えているのか気づけないことがあります。でも、それは誰もが最初に通る道でもあります。重要なのは、その環境に適応し、自分の行動をコントロールできるよう努力することです。中性浮力を身につけることは、海の環境や他のダイバーに敬意を払いながら、自分自身もその場を楽しむための第一歩と言えるでしょう。

誰もが最初はぎこちないもの。でも、練習と経験を重ねることで、いつか自然体でその空間に溶け込める日が来ます。中性浮力を身につけて、私たちがゲストとして招かれているこの美しい海を、もっと自由に、そして礼儀正しく楽しみましょう。

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