出産・育児という大きなライフイベントを経ても、ダイビングへの情熱は変わらないもの。その一方で、「体はもう大丈夫?」「育児中でも潜れるの?」といった不安を抱える方も少なくありません。
まず最初にお伝えしたいのは、妊娠中はスキューバダイビングをしてはいけないということです。水の中にいることはとてもリラックスできるものですが、妊娠中は必ず水面で過ごすようにしてください。
私自身、現在3回目の妊娠を経験している身として、水を恋しく思う気持ちは痛いほどわかります。でも大丈夫。海はあなたを待っていてくれます。あなたが海を愛しているのなら、必ずまた戻ってこられると、自信を持って言えます。
出産後の私がいつも意識しているのは、「できるだけ早く自分を取り戻すこと」。それは身体の回復だけでなく、心のバランスを整えるという意味でもとても大切です。赤ちゃんの誕生は人生の一大イベントですが、その分、気持ちが不安定になることもあります。だからこそ、私は自分らしさを保つために、もう一度大好きなダイビングに戻りたいと強く思ってきました。
このブログでは、産後にダイビングを再開するタイミングや、安全に楽しむためのポイントを解説していきます。「もう一度、海の中へ」というあなたの気持ちに、少しでも安心を添えることができたら嬉しいです。

産後ダイビング復帰のタイミングとは?
まず最初に大切なのは、「いつから潜っていいのか」というタイミングについての正しい理解です。産後の身体は、見た目以上に大きな変化を経験しています。子宮の回復やホルモンバランスの正常化、骨盤底筋の安定、睡眠や栄養状態など、さまざまな要素が安全なダイビングに影響を与えます。この期間はあくまで目安であり、個人差があります。最も重要なのは、かかりつけの医師による診察と許可を受けることです。
たとえば、自然分娩(経膣分娩)の場合は、おおよそ産後4週間を目安に、医師と相談しながらダイビング再開のタイミングを判断するのがよいでしょう。産後3週間(21日)ほどは、感染予防の観点から水への浸入は避けるよう多くの産科医がすすめています。
帝王切開の場合は、手術でお腹と子宮を切っているため、もう少し慎重に。日常生活に戻るには4〜6週間ほどかかるとされていて、ダイビングのように体に負担のかかる活動は8週間以上あけるのが理想的とされています。
また、妊娠や出産で合併症があった方は、もっと慎重に。双子の出産や早産、妊娠高血圧や糖尿病などがあった場合は、必ず医師の確認を受けてから再開しましょう。
そして何より、赤ちゃんのお世話は想像以上に体力を使います。睡眠不足や疲れがたまっていると、回復も遅れがちに。無理をせず、「もう大丈夫」と思えるようになるまで、自分のペースで進めることがいちばん大切です。
参考文献:DAN Women’s Health and Diving
海とのつながりを保つ時間を持とう
まだ本格的にダイビングに戻る準備ができていなくても、水と触れ合うこと自体が心を満たしてくれる時間になります。赤ちゃんを抱っこしながら、お気に入りの海をテーマにした映画を観るのも素敵な時間の使い方です。
たとえば、私は『ライフ・アクアティック』でビル・マーレイに魅了され、いまでも『ジョーズ』を観るとドキドキします。そして、心からおすすめしたいのがフリーダイビングを題材にした『The Deepest Breath』。水に情熱を注ぐ人たちの姿に涙があふれ、深く共感できる作品です。
もし外に出られるタイミングがあれば、ビーチに出かけて波の音を聞いたり、プールで軽く泳いだり、ビーチクリーンに参加してみるのもおすすめです。風や光、波の音、足に伝わる砂の感触──そういった小さな体験ひとつひとつが、海とのつながりを保つ手助けになります。
育児の合間に、ほんの少しでも「水」を感じる時間を持つことで、ダイビングへの気持ちがゆっくりと、でも確かに戻ってきます。
地元のダイブショップに足を運んでみよう
出産後にダイビングを再開したいと思ったら、まずは近くのPADIダイブセンターを訪ねてみるのがおすすめです。地域のプロフェッショナルたちは、産後のあなたが安心して海に戻れるよう、親身にサポートしてくれます。
多くのショップでは、ライフスタイルに合わせたさまざまなスケジュールの講習やファンダイブが用意されており、無理のないペースで復帰することが可能です。
「いきなり潜るのはちょっと不安……」という場合でも、まずはスタッフとお話するだけでもOK。海の話を聞いたり、器材に触れたりすることで、自分のダイビングスイッチがまた少しずつ戻ってくるのを感じられるはずです。

そろそろ本格復帰?リフレッシュコースで安全にスタートを
「もう一度、しっかり潜りたい」そう思ったときに大切なのは、安全に、そして自信を持って水中に戻ること。1年以上ブランクがある場合は、リフレッシュ・プログラムの受講がおすすめです。
特におすすめなのが、PADI ReActivate™ プログラム。オンラインで知識を復習し、PADIインストラクターとの実技トレーニングでスキルを再確認できるので、久しぶりのダイビングでも安心して臨めます。
また、リフレッシュではなく、新しいコースに進むという選択肢もあります。たとえば妊娠中にPADI eラーニングで学科を先に進めておき、海洋実習は産後に行うといった方法もOK。今のライフスタイルに合わせて、無理なく楽しめるペースを選びましょう。
最後に:ダイビングは人生に寄り添うもの
「子どもができたら、趣味を諦めなきゃ」なんてことはありません。ママになったからこそ感じられる海の魅力、子どもに見せてあげたい水中の世界──それは、あなただからこそ描けるストーリーです。
海はいつだって、待っていてくれます。自分のペースで、また一歩ずつ、海の中へ戻っていきましょう。
筆者プロフィール
シャンテル・ワイアット
PADIマスター・スクーバ・ダイバー・トレーナー/『The Scuba News UK』マネージング・エディター。
自然への深い愛と探究心を胸に、つねに次の最高のダイビング体験を求めて世界の海を旅している。友人のために代理出産を経験したことをきっかけに、妊娠とダイビングについてもっと広げたいという思いを強く持ち、積極的に発信を続けている。