こんにちは。このたび、PADI AmbassaDiver に就任した非営利環境活動団体MORE企画(もあきかく)の代表 白井ゆみです。普段は、地元でもある伊豆を拠点に、パソコンに向かっていたり、山に入っていたり、海で泳いだりしながら毎日を過ごしています。
会社員×ダイビング
私は普段、MORE企画の活動をすると同時に、東京の会社で会社員としても働いています。完全リモートで自由が利くため、平日に休みを取ったり、働く場所もその時々の状況に合わせて選択したりしています。おかげで、複数のイベントを同時進行することができています。私は、現在IT人材の業務委託部門に勤めていますが、その前は人材派遣の部署にいました。今後のダイビング業界では、このようにリモートワークができる人材を上手く利用することができると、人手不足や担い手不足を解消する糸口になるかもしれないと思っています。現地ショップの近くへ引っ越して、平日はリモートワーク、休日はダイビングインストラクターとして働いてもらう。または、非常勤には陸の仕事を任せて、水中へはオーナーや常勤スタッフが入るようにするのも良いですね。
かく言う私は、インストラクターを取りましたがどこのお店でも働いていません。自分で作った【海と山の学校MORE SCHOOL】の中で、ファンダイビングもせず、オープン・ウォーターなどのライセンス発行もせず、独自カリキュラムとPADI AWAREのライセンス発行をしているだけです。それでも、経験値が圧倒的に足りないことはわかっているので、これまでお世話になってきたダイビングショップたちで、お客としてファンダイビングに行く際に先輩ダイバーたちから様々なことを教わりながら今に至っています。
普段、デスクワークをしている私からすると、ダイビングの仕事はどれも新鮮で、リフレッシュになっています。ウエイト玉をベルトに通したり、器材を運搬したりするのですら楽しいのです。他業種で働く者にとっては「ダイビングに携われる上に気分転換ができる」、受け入れ側のダイビングショップにとっては「人手不足と常勤スタッフの業務過多の軽減」これは、上手くWin-Winを作れる図なのではないでしょうか。現に、私が受けたIE試験に来ていた方は8割近くが本業を別で持っており、インストラクターとして働く予定の無い方々でした。この人材を活かさない手は無いと思います。
私の1日
さて、前記したように「ダイビングに関わる新しい働き方」を体現しようとしている私ですが、一体どのような活動をしているのかお話しさせていただきたいと思います。日頃、二足どころか、三足、四足の草鞋を履いて「ゆみさん、実は3人いる説」が浮上する私の一日をご紹介したいと思います。毎日このような生活をしているわけではありませんが、私のMORE企画としての一日を詰めた日を例に挙げます。
7時半:毎日のルーティンワーク
起きてすぐにメールやチャットの確認と返信をします。様々な団体や企業、個人とのやり取りをしているため、メールは貯めずに直ぐに返信するよう心がけています。メール返信が終わったら、朝食を食べながら営業資料の作成やホームページの改修を行います。
写真:朝の様子
9時:山の不法投棄回収
大見川を清掃するボランティアの会(略:大ボラ会)と一緒に、伊豆市の山の中に入って不法投棄されたゴミを回収します。待ち合わせ場所に到着後、長靴に履き替えてヘルメットを装着し、ビブスを着用します。メンバーがそろったら、回収予定の場所へ移動してそれぞれがゴミ拾いを開始します。
写真:不法投棄ゴミを回収している様子
「不法投棄」と聞くと、どこかの悪い業者が捨てているイメージがあるかもしれません。しかし、実際はその多くが個人によって捨てられたゴミです。また、その昔ゴミをその辺に埋め立てても良かった時代がありました。その名残のような場所が日本全国に数多く存在します。これらのゴミが川を伝って海へ流れ込んでいる事実を、ネットや本の情報では知っていても直接目にすることはほとんどありません。自分の目で見て体験してもらうことの重要性をMORE企画では大切にしています。
写真:見つけた動線の被覆に苦笑いの様子
ゴミ自体が流れ出ていくのも問題ですが、この山に降った雨が川として海へ流れ込んでいる事実も無視できません。汚染されたゴミを通って、化学肥料や農薬、除草剤など様々な有害物質と共に山の中から海へ水が流れ込んでおり、私たちが愛する海を目に見えない姿で壊し続けているのです。そして、水産物や飲み水、雨、空気となって人間の身体に戻ってきます。それだけでも、地上と水中のゴミ拾いをして、身体に良い物を選択して買い物をする理由として十分ではないでしょうか。私は学者ではないので、難しいことはわかりませんが、目の前にゴミが落ちていることは事実であり、そのゴミを拾うことはできます。
10時半:回収したゴミの分別
回収したゴミは軽トラックに乗せて、事前に行政と相談して決めてある指定の場所へ運びます。その際、燃えるゴミと燃えないゴミに分別し、風で飛ばされないように重たいゴミを上に重ねていきます。終了後は、反省会や次回の予定の確認、大きなゴミの回収にあたっての作戦会議などを行います。トラックに乗らないようなゴミは、民間では限界があるため行政に要請を出すのです。
写真:ゴミの分別をしている様子
写真:団体名の入った旗の下に積み上げておく(数日以内に行政が回収)
11時:事務所付近でお昼
MORE企画は、伊豆市にも拠点があります。そこで昼食がてら、イベントの打ち合わせや担当業務の進捗状況を共有します。常に複数のイベントや仕事が同時進行しているため、私たちは忘れないために議事録を取りつつ全てを時系列に記録しています。これがあれば俗人化しすぎることがありませんし、交渉や営業をした際の流れをさかのぼることができ、今後周囲の方々の相談に乗る際にも役立つのではないかと考えています。
13時:海へ移動して水中清掃
MORE SCHOOL生徒のための下見として、講習場所になる予定の海へ行きゴミの場所や透視度などを確認します。また、海岸に打ちあがるゴミの量などもこの時点で確認しておき、講習当日の手順を考えます。細かいゴミ(講習までそこに留まっていないであろうゴミ)は、下見の段階で回収してしまいます。
写真:長いロープを回収した様子
打ちあがった海岸ゴミは波打ち際に放置しておくと、また波にさらわれてしまいます。私の住む東伊豆は、北東の風が吹くと周辺のビーチやダイビングポイントのエントリー・エキジット付近にゴミが集まります。流れ着くゴミは多種多様で、波の力のすごさを感じるほどに大きな物まで流れ着いてきます。持ち上げられないほど重たい看板、トイレの便座、水が満タンに入ったポリタンク、広げたら数メートルはありそうな大きな漁網、巨大な流木等々。本当はすべてを回収したいところですが、その時々の準備状況や行政との相談状況に合わせて、拾うゴミとタイミングは取捨選択するようにしています。
また、講習の中で行うスキルの確認やPADI スペシャルティコースコースとの関連を探るのもこの下見の時間です。ゴミ拾いダイビングは時に危険を伴います。それは、自分自身が怪我をすることかもしれないし、ロストをしてチーム全体に迷惑がかかってしまうことかもしれません。ゴミを拾うことを広めたい反面、危険についてもきちんと伝えて行くのは私たちの使命だと思っています。海の環境を壊さずに、自信の安全管理とトラブルへの対処、周りの状況判断ができる方が、「水中ゴミ拾いをして海環境を守るダイバー」としての資格を得るのではないかと思います。
写真:ダイビングポイントのビーチクリーンの様子
16時:夕方の会議や休憩
山と海での活動が終わったら、休憩がてら昼食時の打ち合わせの続きをしたり、電話の折り返し対応をしたり、作った資料を営業先へ送ったりします。この時に、SNS記事の作成をしたり、問い合わせメールへの返信、協賛企業への依頼書や領収書の作成と送付を行ったりもしています。遠方から来るメンバーもいるので、泊まりでの打ち合わせの場合は、飲み始めることもしばしば。会社の固い会議ではなく、あくまでもゼロイチのアイディアを形にしていく作業が中心なので、自由な意見出しが必要。雑談の中にたくさんのヒントがあり、ここまでの数年間では99%が雑談しながら生れたアイディアを形にしてきたMORE企画です。
写真:MORE企画の運営メンバーの3人
18時:解散して帰宅
帰宅後は夕飯を作って家族で食べ、その日のゴミの状況や打ち合わせの内容などを話します。この時に、家族団らんの時間と言うよりは、一日の出来事を頭の中で整理するためのアウトプットの時間として、家族に聞いてもらっています。話ながら、やらなければいけないことを思い出せたり、新しいアイディアが生まれたりすることも多々あるため、非常に大切な時間です。また、MORE企画の内部とだけ話をしていると、どうしても客観的な目線を持つことが難しい場合があるため、まったくの外部からの意見をもらう貴重な機会でもあります。
20時:オンライン会議
他のメンバーとの打ち合わせや遠方に住む中小企業診断士、税理士の仲間たちとの打ち合わせ、メーカーや他のダイビング関係者とオンラインで会議をする時間です。それぞれ、本業が別であったり、昼間は海に出ていたりするため、会議は遅い時間から始めることが多いですが、ありがたいことに多くの関係者が多忙でテキパキとしているため、1件の会議が30分~60分ほどで無駄なく終了。
22時:最後の業務と就寝
会議の内容をまとめたり、個人のSNSに予約投稿をしたりして長い一日は終了します。寝る前は、三度の飯より大好きな漫画を読んだり、ミステリー小説を読んだりとフィクションの世界へ飛び込みます。ここでも、アイディアが生まれることもありますし、数々の名言が私の背中を押してくれるので、とても重要な趣味の時間となっているのです。
新しい働き方
私の働き方やダイビングとのかかわり方は、特殊かもしれません。しかし、仕事の状況や就業環境によっては似たような1日を過ごすことができる方も多いのではないでしょうか?
私自身が人材のプロとして働き10年近くになります。多くの企業と働き手を見てきた中で、受け入れ側のダイビングショップにも、働く側のインストラクターにも色々と課題があることは容易に想像ができます。それでも、せっかく取ったライセンスを活かせる場所が欲しいですし、せっかく守ってきたショップを継続させたいとの想いは皆さん持っているのではないかと思います。
MORE企画の仲間にも、ダイビングを求めて海の近くに移住してきた方やフルリモートの仕事への転職を考えている方がいます。休みの日にプチ旅行としてダイビングをしに来るダイバーがいるのと同時に、午前中はダイビングショップの手伝いをして、午後は本業の会議に出席するダイバーが居ても面白いですよね。また平日は満員電車に乗って会社へ行き一日中デスクワークだからこそ、週末は思い切り身体を動かすダイビングショップのスタッフとして働く…。そして、合間にはMORE企画のメンバーとして山のゴミ拾いや海岸清掃などにも汗を流し、貢献意欲も満たしていくなんて、自然を大切に思っているダイバーにとって理想的なのではないかと思います。
まとめ
PADIのミッションは「海を探求し、そして守っていくために、10 億人のトーチベアラー(希望の灯を持った人) を作る」で、ビジョンは「人類と海のバランスの取れた共存・共栄を目指す」です。海を守るには守れる人が必要で、人と海がバランスを取るには個々の足場がしっかりしている必要があります。
他業種で活躍してきた人材とダイビング業界に精通している先人たちが上手く融合することができれば、お互いのスキルを活かしつつ、全員が“トーチベアラー“として世界に誇る日本のダイビング文化を進化させ守っていけるのではないでしょうか。