
写真は、南大東島の地下。水に沈んだ鍾乳洞の中で、両脇のシリンダーの片方を外して、狭い通路を抜けようとしている様子が捉えられています。こんな場所に潜るとき、器材はどんな構成になるのか。今回は「サイドマウント」の話をしようと思います。

南大東島は、沖縄本島から東へ約360キロ。太古のサンゴ礁が隆起してできた、石灰岩の島です。この島の下には、100を超える洞窟があると地元では言われています。そのいくつかには地下水が満ち、地底湖になっています。

地底湖から先へ続く水中洞窟は、深くありません。私が潜った範囲では平均7メートルほど、最大でも20メートルに届かない。数字だけなら、レクリエーショナルダイビングの範囲です。
でも、上を見ても水面がありません。あるのは岩の天井。何かあっても、すぐには浮上できない。その一点で、ここはテクニカルダイビングの場所になります。私はここ数年、この地底湖のひとつひとつに、「サイドマウント」という器材構成で潜ってきました。

サイドマウントという器材構成
では、なぜサイドマウントなのか。テクニカルダイビングの器材構成は、大きく分けて2つあります。一つは、背中にシリンダーを2本背負う「ダブルシリンダー」。そして、2本のシリンダーを1本ずつ両脇に抱える「サイドマウント」です。

南大東島の水中洞窟は、陸の洞窟の奥にあります。地底湖にたどり着くまでが、まず一仕事です。シリンダーを抱えて、鍾乳石の間をくぐる。濡れて滑る岩に足を置く。斜面を、一歩ずつ降りる。明かりは自分のライトだけ。背中に2本を背負ったまま、ここを降りるのは厳しいものがあります。

そんな場所でも、サイドマウントならシリンダーを1本ずつ運ぶことができます。つまり、サイドマウントという構成は、潜るための構成である前に、潜る場所まで器材を運ぶための構成でもあります。そして、器材を運び終わって水に入ると、今度は狭い通路が続きます。
南大東島の水中洞窟には、「薄い」通路がいくつもあります。天井と底のあいだが、体ひとつぶん。うつ伏せになって、目の前に岩、背中にも岩。背負ったシリンダーがあると、それ以上先には進めなくなってしまいます。シリンダーが体の横にあるから通れる―そういう通路が、この島には非常に多くあります。
それでも、なお、まだ通れない場所があります。
冒頭の写真の場所です。右のシリンダーを外し、体より先に通路の向こうへ差し込む。足を閉じ、体を伸ばし、シリンダーのあとから自分が通ります。シリンダーを外せる構成だから、ここから先へ行くことができます。
ここまでを振り返ると、南大東島の地底湖でサイドマウントが活かされる理由は、大きく3つあります。
地底湖までの道のりでは、シリンダーを1本ずつ運べること。水中では、シリンダーを体の横に装着することで、上下に狭い通路を通れること。そして、それでも通れない場所では、シリンダーを体から外して先へ進めること。
運べて、通れて、外せる。
こうしたサイドマウントの特性が、南大東島の地底湖という特殊な環境を探索するうえで活かされています。
この構成を学ぶには
シリンダーを背中ではなく体の横に配置して潜るサイドマウント。その基本を学べるのが、PADIの「サイドマウント・ダイバー・スペシャルティ」です。サイドマウントは、レクリエーショナルダイビングのひとつのスタイルとして楽しめるだけでなく、その先でテクニカルダイビングに挑戦したい人にとっても、選択肢のひとつとなります。
コースでは、サイドマウント器材のセットアップやシリンダーの装着・取り外し、水中での扱い方など、その基本となるスキルを身につけていきます。
この記事で紹介してきたサイドマウントの可能性を知る、その最初の一歩となるコースです。
興味を持った方は、お近くのPADIダイビングショップで、サイドマウント・ダイバー・スペシャルティについて相談してみてください。
そして、南大東島の地下には、まだ誰も潜っていない空白が残されています。調査は、これからも続きます。
伊左治佳孝(いさじ・よしたか)|水中探検家・テクニカルダイビングインストラクター
水中洞窟や沈没船など、到達することが難しい環境の探検・調査・記録を専門とする。
DIVE Explorers、JKUEP(Japan Karst & Underwater Exploration Project)主宰。2025年、南大東島の水中洞窟で発見・採取した甲殻類が2026年には新種イサジカンゲキヨコエビ(Bogidiella isajii)として発表される。ADEX Blue Legacy Awards 2026「Explorer of the Year [Asia]」受賞。TBS「情熱大陸」、NHK「NHKスペシャル」ほか出演。
