私たちダイバーに多くの感動を与えてくれるサンゴ礁の海。そんなサンゴ礁が、地球温暖化による海面上昇や海水温の上昇、海洋汚染などにより、大きな危機を迎えています。私たちダイバーにとっても、美しいサンゴ礁を守ることは使命と言えるでしょう。まずはサンゴについての正しい知識を身につけ、自分たちに何ができるかを考えてみましょう。

サンゴって何?

樹木のように枝分かれしているものもあり、一見、植物に見えるサンゴ。実際、昔は植物だと思われていたこともあるようですが、実はれっきとした動物。イソギンチャクやクラゲと同じ「刺胞動物」で、小さな個体(ポリプ)がたくさん集まって群体を形成しています。

1つ1つの個体は、口がひとつだけ開いた袋(巾着)状の体を持っており、その口の周りを触手が取り囲んでいます。触手の中には「刺胞」という、他の動物を捕らえるための毒針が入っており、サンゴはこの触手で動物プランクトンを捕らえ、口から体内に取り込み、消化して栄養をとっているのです。また、細胞内に共生している褐虫藻の光合成によって生み出される有機物も、サンゴの大きな栄養源。サンゴに必要な栄養分の90%以上が、褐虫藻によって作り出されているといわれています。

サンゴのポリプ

サンゴとサンゴ礁は何が違う?

「サンゴ」は動物の1個体、または群体の1つ1つを指しますが、「サンゴ礁」はサンゴがその石灰質の骨格を積み重ねて海面近くまで高まった地形のこと。つまり、「サンゴ」は生物、「サンゴ礁」は地形のことを指します。

サンゴだけではなく、石灰藻や有孔虫、貝など、石灰質の骨格や殻を持つものもサンゴ礁をつくりだす構成要素。それらの生物が死滅すると、残された石灰質の骨格や殻が固まって長い間積み重なり、サンゴ礁の地形をつくりだします。サンゴ礁には3つのタイプがあり、それぞれに特徴があります。これらの地形が、さまざまな環境を生み出し、サンゴ礁の生物の多様性を支えているといえるでしょう。

上空から見たモルディブ環礁の小さな熱帯の島
  • 裾礁(きょしょう)Fringing reef
    陸地とサンゴ礁が接した地形。サンゴの生育に適した海域に、海底噴火や隆起によって陸ができると、周囲の浅瀬にサンゴが付着。サンゴは外側へと成長を続け、島を縁取るようにして広がっていきます。
  • 堡礁(ほしょう)Barrier reef
    陸地とサンゴ礁の間に水深数10㍍の浅い海(ラグーン)を持つ地形。裾礁の状態から、地殻変動や海水面上昇で島が徐々に沈み、潮当たりのいい外洋のほうでサンゴ礁が発達すると、このような地形になります。
  • 環礁(かんしょう)Atoll
    完全に島が沈み、リング状に島の輪郭の形をしたサンゴ礁だけが残った地形。リーフ(礁原)の上に砂が集まり、小さな島をつくることもあります。モルディブやマーシャル諸島などが有名です。

サンゴはどうやって成長する?

サンゴの成長には、個体がどんどん分裂して群体をつくるものと、卵と精子の受精によって幼生をつくり(サンゴの産卵)、新たな場所に定着して群体をつくる「有性生殖」があります。

サンゴの産卵には、卵と精子を一斉に放出して海面で受精するタイプ(放卵放精型)と、体内で受精して成長した幼生を放出するタイプ(保育型)の2タイプがあります。「プラヌラ幼生」と呼ばれるサンゴの幼生は、生息できる場所を探しながら泳ぎ、場所を見つけると着生します。そこでポリプに変身し、分裂してサンゴの群体へと成長していくのです。

サンゴの産卵はいつ行なわれる?

サンゴの産卵時期は種類によって異なり、沖縄の場合、最も普通に見られるミドリイシ類の多くは5~6月頃、キクメイシ類などの多くは8月頃に産卵します。

ほとんどのサンゴの産卵は年に1回。水温の季節変化に卵成熟を同調させ、1年近くの時間をかけて産卵の準備がされています。卵が成熟すれば産卵は可能ですが、成熟してすぐに産卵するわけではなく、多くのサンゴが満月の頃を待って一斉に産卵。この産卵日の同調性には、月齢周期と日没からの経過時間が影響を与えていると考えられています。

産卵日の同調性は地域によってさまざまで、オーストラリアのグレートバリアリーフでは満月の2~3日後に100種を超えるサンゴが一斉に産卵しますが、このような同調性の高い産卵は他の地域では希。沖縄など多くの地域では産卵日がばらける傾向にあり、産卵直前の天候などによっても影響を受けるため、産卵日を正確に予想するのは難しいようです。

マグネチック島のサンゴの産卵

サンゴの「白化現象」とは

サンゴ礁を衰退させる大きな原因のひとつとなっているのが「サンゴの白化現象」。サンゴの白化現象とは、造礁サンゴが共生する褐虫藻を失うことにより、透明なサンゴ組織を通して白い骨格が透けて見え、サンゴ全体が白くなる現象のことをいいます。「高水温」、「低水温」、「強い光」、「紫外線」、「低い塩分」など、サンゴに大きなストレスがかかることが原因と考えられており、これらのストレスが褐虫藻の光合成系を阻害し、光合成で消費しきれなくなった余剰の光エネルギーがさらに褐虫藻の光合成系を損傷することが、白化の原因となっているようです。

白化してもサンゴがすぐに死んでしまうわけではありませんが、この状態が長く続くと、サンゴは褐虫藻の光合成による栄養分を受け取ることができなくなり、やがて死んでしまいます。白化を起こすのは、サンゴだけではなく、共生する藻を持つイソギンチャクなどの他の動物でも観察されることがあります。

サンゴの白化現象

サンゴの天敵「オニヒトデ」とは?

これまでにもしばしば大発生し、サンゴ礁に大きな影響を与えてきた〝サンゴの天敵〟オニヒトデ。ナマコやウニ、ウミシダなどと同じ棘皮動物の仲間で、全身が毒を持ったトゲで覆われています。成熟した個体の大きさは30cm前後ですが、大型のものでは直径60cmにもなるとか。体の下側に口があり、そこから直接胃を出して、サンゴに押し付け、体外でポリプを消化して吸収するという食べ方をしているため、サンゴの骨格だけが白くきれいに残ることになります。1匹のオニヒトデが食べるサンゴの量は、1年間に5~13平方メートル。成長の速いミドリイシ類やコモンサンゴ類を好みますが、飢餓状態になると種類に関係なくすべてのサンゴを食べてしまうそうです。

サンゴを捕食するオニヒトデ

サンゴ礁保全のために私たちにできることは?

サンゴ礁保全のためにできることは、まずは「知ること」。いきなり行動しようとするのではなく、サンゴについての正しい知識を身につけることが大切です。そのうえで、自分に何ができるかをきちんと考えて、行動するといいでしょう。

おすすめは、「サンゴ礁の保護スペシャルティ・コース」の受講。このコースでは、サンゴ礁がどのように機能していて、なぜそれほどまでに重要かを理解することができるようになります。私たちに何ができるのかを考えるのに最適なコースなので、ぜひ受講しておくことをおすすめします。

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