海洋プラスチックごみや海水温の温暖化など、様々な問題に直面している海の環境ですが、皆さんは「磯焼け」についてご存じですか? 近年、各地の海で問題となっており、耳にする機会も増えてきました。生物相への影響など、私たちダイバーにとっても他人事ではない「磯焼け」について、まずは現状を知り、自分たちにできることを考えてみましょう。

磯焼けとは

「磯焼け」とは、「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を越えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義されています。コンブやワカメなどの海藻が収穫できなくなるだけでなく、海藻をエサにしているアワビやサザエなどの生物の減少、藻場を住処や産卵の場などにしているイセエビやカサゴといった生物の減少にもつながり、漁業にとって大きなダメージに。もちろん、私たちダイバーにとっても、生物が少ない砂漠のような海は、ダイビングスポットとして魅力的でないことはいうまでもありません。最近では、冬の海のアイドルとして人気のダンゴウオも、磯焼けで住みかとなる海藻が減ってしまっていることで、見られる機会が減少しているという状況にもなっています。

磯焼けの原因

磯焼けの原因は複雑で、複数の要因が複合的に絡み合っていると考えられています。

海水温上昇

近年、地球温暖化の影響で海水温が上昇しています。海藻は水温変化に敏感なため、海水温上昇によって生育が阻害されます。特に、コンブやワカメなどの大型海藻は海水温上昇の影響を受けやすいことが知られています。また、高水温による直接的な影響だけでなく、以下に挙げるように、水温の上昇に伴う生き物たちの活動の変化も、磯焼けの原因になっていると考えられています。

ウニによる食害

北日本を中心に問題となっているのがウニによる食害。エサとなる海藻をウニが大量に食べることが磯焼け(ウニ焼け)の原因になっているといわれています。本来であれば冬場に水温が下がるとウニの活動が弱まり、その間に芽吹いた海藻が成長するはずなのですが、温暖化による海水温の上昇でウニが常に活発に活動し、生殖活動も行なわれ続けるため、海藻が芽吹いてもすぐに食べ尽くされてしまいます。しかも、ウニはエサがなくても長期間生きることができるようで、磯焼けした海底がウニだらけになっていることも。飢餓状態のウニは身が痩せているため商品になりません。こうした状況から、磯焼け対策としてウニの駆除を実施しているところは多く、ダイバーが協力して実施している例もあります。最近では新たな試みとして、ウニを殺すのではなく、回収してエサを与えて育て、商品にするというものも。今後、私たちが口にする機会も増えるかもしれません。

ウニが海藻を食べ尽くし、何もない砂漠のようになってしまった海底

植食性魚類による食害

一方で南~西日本を中心に問題となっているのが、アイゴやイスズミ、ニザダイ、ブダイなどの植食性魚類による食害。特に、アイゴによる食害が注目されており、温暖化による海水温の上昇により生息域が北上し、大群がカジメなどの海藻を食べ尽くしてしまっているとのこと。水温が下がれば摂餌活動も弱まるそうですが、海水温が高いため常に活発になっており、各地で食害が報告されています。アイゴには特有の臭みがあり、棘に毒があることから市場価値が低いのですが、いくつかの地域では調理法などを工夫して食用化も進んできています。ちなみに沖縄料理として知られる「スクガラス」はアイゴの幼魚を使っていますが、そのほとんどはフィリピンなどの海外から輸入しているのだとか。アイゴが今後、価値のある魚として漁獲されることが期待されます。

沿岸環境の悪化

生活排水や農業排水による栄養塩の増加、赤潮や青潮の発生、港湾建設による海岸線の改変など、沿岸環境の悪化も磯焼けの原因となります。栄養塩の過剰な増加は海藻の異常繁殖を招き、その後、海藻が枯死して大量の有機物が海底に沈殿します。この有機物が分解される過程で酸素が消費され、海底酸素欠乏状態となり、海藻に悪影響を与えるといわれています。

海洋酸性化

大気中の二酸化炭素が海水に溶け込むことで海水が酸性化する「海洋酸性化」も磯焼けの原因のひとつと考えられています。海洋酸性化は海藻の光合成や成長を阻害し、磯焼けの発生リスクを高めるといわれています。

磯焼けを防ぐには

では、磯焼けを防ぐにはどうすればいいのでしょうか? そのためには以下のような対策が必要と考えられています。

地球温暖化対策

上記の磯焼けの原因を見ると、地球温暖化による海水温の上昇が非常に大きな影響を与えていることがわかります。気象庁のデータによれば、日本近海の平均海面水温は、2023年までのおよそ100年間+1.28度上昇しているとのこと。これは世界全体の平均海面水温の上昇(+0.61℃/100年)よりも約2倍の上昇となっており、特に日本海中部では冬季の上昇が顕著となっています。温室効果ガスの排出削減に取り組むことで、地球温暖化=海水温上昇を抑制し、海藻の生育環境を守ることが重要です。

沿岸環境の保全

生活排水や農業排水の適切な処理、赤潮や青潮の対策、海岸線の保全など、沿岸環境の保全も重要です。特に、栄養塩の過剰な流入を防ぐことは、海藻の異常繁殖や海底酸素欠乏状態を防ぐために重要です。

植食動物の個体数管理

ウニなどの植食動物の個体数管理も磯焼け対策として有効です。ウニの個体数を減らすことで、海藻の食害を抑制し、海藻の回復を促進することができます。単に駆除するだけでなく、植食動物を回収して商品にする試みも行なわれており、アイゴやイスズミ、ニザダイなどの未利用魚・低利用魚の活用が進むことも期待されます。

磯焼けは、海藻が消失することで生物多様性や漁業資源に悪影響を与える深刻な問題です。藻場がなくなれば、そこに住む生き物たちもいなくなり、ダイビングを楽しむうえでも大きな影響があります。私たちダイバーにできることは、まずは磯焼けについて知り、実際に海の中で目にした現状を周囲の人に伝えること。そして、一緒に地球温暖化への対策に取り組んでいくことではないでしょうか。海藻が生き生きと繁茂する豊かな海を守るために、省エネなど身近なところから始めていきましょう!

海藻が生き生きと繁茂する“海の森”を守るために
Share This