夏が近づくと、冷えたビールやお気に入りのお酒がおいしく感じられる季節になります。夏休みにダイビング旅行を計画している人の中には、仲間と乾杯する時間を楽しみにしている人も多いでしょう。しかし、その一杯を楽しむタイミングや量を間違えると、安全なダイビングに大きな影響を及ぼす可能性があります。
ダイビング直前にお酒を飲んで潜ろうとする人は少ないかもしれません。しかし、注意したいのは当日の飲酒だけではありません。前日の深酒による脱水症状や二日酔いも、翌日のダイビングに影響を与える可能性があります。
たとえ自分はお酒を飲まなくても、この記事で紹介する事実を知っておくことで、他のダイバーに飲酒とダイビングが危険な組み合わせであることを伝える助けになるでしょう。
飲酒とダイビング:水中事故を招く危険な組み合わせ
アルコールが中枢神経系に影響を与えることは、多くの研究によって明らかになっています。
その結果、次のような状態を引き起こします。
- 反応速度の低下
- 判断力の低下
- 身体の協調性の低下
さらに厄介なのは、飲酒した本人が自分の能力低下に気づきにくいことです。アルコールは実際の状態以上に自信を与えるため、「大丈夫だろう」という過信につながることがあります。しかし、水中ではわずかな判断ミスや反応の遅れが重大な事故につながる可能性があります。バディとのコミュニケーション、浮力コントロール、トラブルへの対処など、ダイビングでは常に冷静な判断が求められるからです。
ダイビング事故の調査・研究を行う組織である Divers Alert Network(DAN)の報告によると、
- 飲酒可能年齢の成人が関与する事故の約50%でアルコールが関係している
- 溺水事故全体の約40%にアルコールが関連している
- 成人男性の溺水事故では約80%にアルコールが関与している
というデータがあります。もちろん、すべてがダイビング事故ではありません。しかし、この数字はアルコールが水辺での活動にどれほど大きなリスクをもたらすかを示しています。
海を安全に楽しみ続けるためには、体調管理もダイビングスキルの一部です。前日もアルコールの量には十分に注意して、クリアな判断力で潜ることを心がけましょう。

翌日のコンディションに気を配ろう
「前夜の宴会くらい大丈夫」と考えてしまうことはありませんか?実はアルコールの影響は思った以上に長く残ることがあります。ダイビング旅行中は、楽しい食事やお酒の席が増えるからこそ、翌日のコンディションにも気を配ることが大切です。
Divers Alert Network(DAN)が紹介している研究では、経験豊富なダイバーであっても、血中アルコール濃度がわずか0.04%の状態でパフォーマンスの著しい低下が確認されています。さらに別の研究では、0.01%という、ごく少量の飲酒に相当するレベルから認知機能への影響が始まることが示されています。
陸上では些細なミスで済むことでも、水中では重大な事故につながる可能性があります。
例えば、
- 深度の確認を怠り、減圧症(DCS)のリスクを高めてしまう
- バディの状況確認を忘れ、トラブル発生時にお互いをサポートできなくなる
- 残圧確認が遅れ、エア切れから緊急浮上を招く
- ナイトダイビングで方向感覚を失い、ボートや岸から離れた場所に浮上してしまう
窒素酔いのリスクを高める可能性も
アルコールは、ダイビング中に起こる窒素酔いの影響を強める可能性があることも研究で示されています。窒素酔いは「深海の歓喜(Rapture of the Deep)」とも呼ばれ、主に深い水深で発生することがあります。
窒素酔いの症状には、次のようなものがあります。
- 集中力の低下
- 強い眠気
- 多幸感(根拠のない高揚感)
- 不安や恐怖感
- 判断力の低下
- 過度な自信や過信
脱水症状と減圧症(DCS)のリスク
旅行中は、飛行機での移動や大量の発汗、旅行者下痢症、アルコールの摂取、あるいは単純な水分不足などが原因で脱水状態になりやすいものです。ダイバーにとって脱水は特に注意すべき状態です。なぜなら、脱水によって体内の血液量が減少すると、ガス交換の効率が低下し、体内に溶け込んだ窒素の排出が遅くなる可能性があるからです。その結果、減圧症のリスクを高める要因の一つになると考えられています。
また、脱水状態では持久力や身体能力も低下しやすくなります。普段より疲れやすくなったり、思うように体が動かなかったりすることで、ダイビング中のストレスや疲労につながることもあります。
厄介なのは、二日酔いの症状と減圧症の初期症状に共通点があることです。例えば、強い疲労感、頭痛、吐き気、倦怠感といった症状は、二日酔いでも減圧症でも見られます。そのため、飲酒後にダイビングをした人が体調不良を感じた場合、「ただの二日酔いだろう」と自己判断してしまい、本来必要な医療機関への相談や治療が遅れる可能性があります。減圧症は早期に対応するほど回復の可能性が高まるため、症状を軽視しないことが重要です。

ダイビング前の飲酒は、決して冒す価値のないリスク
ほとんどのダイバーにとって、「飲酒して潜ろうとしている人を止めなければならない場面」に遭遇することはないかもしれません。しかし、もしそのような状況に出会ったときには、飲酒とダイビングがどれほど危険な組み合わせなのかを知っておくことが大切です。
次に紹介するのは、ダイバーの安全向上に取り組む非営利団体 Divers Alert Network(DAN)が紹介している実際の事例です。このエピソードは、「飲んだら潜らない」というシンプルなルールがなぜ重要なのかを、改めて考えさせてくれるでしょう。