ダイビングは楽しく、活力を与えてくれるアクティビティですが、ダイビングをするうえで最も大きな懸念事項として、減圧症があります。
減圧症を回避し、安全にダイビングを楽しむためには、ダイビングの前後にすべきことだけでなく、ダイビング後にすべきでないことをを覚えておくのも同じくらい大切です。ベテランダイバーでさえ、忘れてしまっているかもしれない項目をいくつか紹介します。
さっそく「ダイビング直後に絶対やってはいけない10のこと」を見ていきましょう。
1.飛行機への搭乗
ダイビング後のフライトは、ダイバーなら誰もが知っているリスクのひとつでしょう。この話題は、ダイビング界では頻繁に取り上げられます。というのも、せっかくの旅行でできる限り多くの時間をダイビングに費やしたいと考えるのがダイバーだからです。
ダイバーがダイビング直後の飛行機を避けるべき主な理由は、気圧の変化です。機内の気圧は高度が上がるにつれて低くなります。ダイビング直後に飛行機に乗ると、高度が上がることで気圧が下がり、ダイビング中の急浮上と同じような状態になります。
長く深く潜れば潜るほど、より多くの窒素が血液や組織に溶け込みます。水面へ浮上する際に、溶け込んだ窒素は呼吸とともにゆっくりと排出されますが、急浮上等で排出が追いつかない場合は、体に溶けている気体(主に窒素)が気泡化し、減圧症が出現してしまいます。
減圧症は、疲労感や筋肉や関節の痛み等の軽度のものから呼吸困難や胸痛など重度までさまざまな症状で現れる可能性があります。場合によっては命にかかわることもあります。関節痛や筋肉の痛みなどは、俗称として「ベンズ」とも呼ばれることもあります。
飛行前に適切な時間を置くことで、体内の窒素を減らすことができます。一般的に、どのようなダイビングをした場合でも、飛行前には24時間の水面休息をとることをおすすめします。どんなダイビングした後でも守るべきルールであり、フライト前により長い時間が取れるほど安心です。
ダイバーズ・アラート・ネットワーク(DAN)によるダイビング後のフライトガイドライン
以下のDANガイドラインは、減圧症の症状がなく、空気シリンダーを使ったダイバーが、高度2,000~8,000フィート(610~2,438メートル)のフライトに登場する場合に適用されます:
- 1回のノンストップダイビングでは、少なくとも12時間後のフライトに乗ること。
- 1日に複数回のノンストップダイビングを行った場合、または複数日にわたってダイビングを行った場合は、少なくとも18時間空けて飛行機に乗ること。
- 減圧停止が必要なダイビングを行った場合は、フライト前に少なくとも24時間空けること。
また、ダイブコンピューターから飛行禁止時間が指示されている場合は、それ以上待つ必要があります。安全面を考慮して、フライトまでの24時間の水面休息時間を設け、観光をしたり、陸上のアクティビティを楽しみましょう。ただし、ダイビングの直後は避けた方が良いアクティビティもあるので、ぜひこのまま読み進めてください。
2. 登山または山へのドライブ
飛行機に限らず、気圧が低くなるところ(高所)に行くことは控えた方が良いでしょう。標高400m以上の移動は明らかに発症リスクが高まります。
標高10,000フィート(3,048メートル)の山の頂上までドライブやハイキングをしてしまうと、飛行機に乗るのと同じ減圧症(DCS)のリスクがあります。平均的な民間ジェット機の機内気圧は、海抜6,000~8,000フィート(1,800~2,400メートル)とにいることと同じと言われています。
登山とスキューバダイビングを同じ旅行で組み合わせる場合は、減圧症のリスクを最小限に抑えるために、登山を先にしましょう。ダイビングの前に登山をする方が、減圧症のリスクを減らすことができます。登山やハイキングの後、ダイビングをする前には必ず休息と水分補給をしましょう。
同じように、ダイビング後に車で高所を通る道路を使って帰宅する場合は、減圧症のリスクを減らすために十分な水面休息時間(理想的には24時間)を取るか、別のルートを選択する必要があります。
中には、高所にある湖などでダイビングをされる方もいらっしゃるでしょう。その場合は、高所ダイビングのための特別なダイブテーブルを使用してダイビング計画を立て、それに従います。高所でのダイビングは、アルティチュード・ダイビングと呼ばれ、PADIのスペシャルティ・ダイバー・コースもありますので、ぜひチェックしてみてください。
3. ジップライン
ジップラインは、アクティビティ自体に問題があるわけではありませんが、通常、山や高地などに設置されているが多いため、そこで心配なのは、やはりダイビング後の高所への移動です。予約前にジップラインがどの程度の標高にあるか確認することをおススメします。確認することで、減圧症のリスクを減らし、心配なくジップラインを楽しむことができます。
ダイビング後24時間以上避けるべきその他の高地でのアクティビティ
- パラシュート・ジャンプまたはスカイダイビング
- パラグライダー
- パラセーリング
- スキーまたはスノーボード
- 気球体験
地元に詳しいPADIダイブショップに連絡し、ダイビング後にリスクが少なく安全にできる他のアクティビティ(ローカルフード、リラクゼーション、イベントなど)について尋ねるのが一番です。
4. 深部組織マッサージ(ディープティシュー・マッサージ)
え?マッサージもダメなの?と思った方、安心してください。すべてのマッサージがダメなわけではありません。穏やかなリラクゼーションマッサージであれば、問題ないでしょう。DANによると、マッサージと減圧症の関連性は証明されていませんが、深部組織マッサージ(奥深くにある筋肉や結合組織にアプローチするマッサージ)は、以下のような懸念事項があります。
- 血流が増加すると、気泡が形成される可能性がある。
- 減圧症の誤診(または診断の遅れ)につながる筋肉痛。
ダイビングの後、少なくとも12時間は深部組織のマッサージを控えることをおススメします。
5. 熱い湯船やシャワーでリラックス
体が温まり血行が良くなると、気泡ができる可能性も高くなります。DANによると、「気体の溶解度は温度に反比例するため、組織は温められると溶解度が低下する。ガス濃度が高い組織を温めると、気泡形成が促進される可能性がある。」と言われています。
特に、寒いダイビングの後、熱いシャワーや湯船につかると、血流が増加する前に組織が温まってしまいます。この場合、循環による気泡の排出よりも早く気泡が形成され、減圧症のリスクが高くなります。よって体温が上がるサウナなども避けた方が良いでしょう。
このリスクを軽減するためのアドバイスは以下の通りでです。
- 熱いシャワーや湯船に入る前に30分ほど待ち、体をゆっくり温める。
- シャワーや湯船の温度を下げ、体が急激に熱くならないようにする。
6. 過度の飲酒
大量のアルコールを摂取すると、脱水症を引き起こしやすくなります。それが原因で減圧症のリスクを高めることになりますので、飲酒の前に十分に水分を補給すること、ダイビングの前後にそれぞれ400ml以上水分を取ることをおすすめします。
また、ダイビング後に飲酒して気分が悪くなると、減圧症の症状を診断するのが難しくなります。早く症状を把握しないと、減圧症は深刻な事態になりかねません。
アルコールとダイビングはベストコンビネーションではありません。ダイビング仲間との旅行でアルコールは欠かせない!と思う方ももちろんいらっしゃるでしょう。ダイビングの後にアルコールを飲みたい場合は、数時間待ってから水分補給をしっかりしてからにしましょう。
7. フリーダイビング
体に溶け込んだ窒素は、ごく浅い水深での気軽なシュノーケリングでは大きな心配にはおよびません。しかし、スキューバダイビングをするフリーダイバーにとっては、大きな問題となる可能性があります。スキューバダイビングの後にフリーダイビングをすると、減圧症のリスクが高まる可能性があります。DANによると、これには2つの理由があります:
- フリーダイビングでの激しい運動は、体内での気泡形成を促進する可能性がある。
- スキューバダイビングですでに体内にある気泡が水圧で収縮し、動脈循環に入ることがある。
もしあなたがフリーダイバーも楽しむスキューバダイバーであるのなら、フリーダイビングのコミュニティーの多くは、スキューバダイビング後のフライトのガイドラインを適用することを勧めています:
- 1回のノンストップダイビングの後は、フリーダイビングの前に12時間待つこと。
- 複数回のノンストップダイビングまたは数日間にわたるダイビング後は、18時間待つこと
- 減圧停止が必要なダイビングの後は、24時間待つこと
- ダイブコンピューターの飛行禁止時間の指示がある場合は、それ以上待つこと。
一般的なルールとして、どのようなダイビングをした後でも、フリーダイビングをする前には24時間空けることが推奨されています。どんなダイビングした後でも守るべきルールであり、より長い時間が取れるほど安心です。
8. 激しい運動
ダイビング後の運動は急速に気泡を発生させるので、好ましくないとされています。神経障害を起こす危険性があるため、強いバルサルバ法(鼻をつまみ、鼻腔内圧を上げて中耳腔に空気を入れる耳抜き法)や、咳、腹部に力を入れるような運動なども避けたほうがよいとされています。
他にも例えば、次のような運動があります:
- ジムでウェイトトレーニング
- 水泳やランニング
- ビーチバレーやサッカー
- 激しいダンス
DANによると、研究者の間では、ダイビング後の運動は少なくとも4~6時間待ってから行うのが一般的だと言われています。以前は24時間が目安でしたが、現在では非現実的と考えられています。もちろん(このリストにある他の多くの活動と同様)、ダイビングと運動の間隔が長ければ長いほど、減圧症のリスクは少なくなります。
9. 水面休息時間をとらない
水面休息時間を取らないという選択肢はもはやありません。マンタやサメ、アザラシなど、大物海洋生物に囲まれたダイビングから戻ってきた後は、2本目(そして3本目、4本目…)にまた飛び込みたくなってしまう気持ちはやまやまですが…
ダイビング後、体内にはまだ窒素が残っており、次のダイビングを安全に行えるほど窒素が減るには時間がかかります。どのくらい待つ必要があるかは、潜水深度と潜水時間、そして次の潜水予定によって異なります。どのような場合でも、必要な水面休息を取らずに潜ると、減圧症のリスクが高まります。
また、水面休息を取ることは、周辺の観光地をスマートフォンで調べたり、バディと話をしたり、次のダイビングの前に大切な休息やリラクゼーションをとる絶好の機会でもあります。
10. 体調を無視して、無理をする
ダイビングの後は、自分の体調をよく観察し、それに応じた対応をする必要があります。特定の徴候や症状は、深刻な健康問題を示すことがあるので、無視してはいけません。例えば、ダイビング後に発疹、しびれ、息切れ、めまいなどがあれば、減圧症の可能性があります。ダイビング後に耳が痛くなる場合は、中耳の圧外傷や感染症の可能性があります。
減圧症の徴候や症状の中には、以下のような他の疾患と混同されるものもあるので、注意が必要です。
- 日焼け
- 脱水症状による頭痛
- 船酔いによる吐き気
- 朝早くから活動していることによる疲労感
少し安静にして、しっかりと水分補給をすれば体調が回復するかもしれませんが、決して無理をしないでください。何かおかしいと感じたら、バディやガイドに相談し、専門医のアドバイスを受けることも検討しましょう。
ダイビングの後は何をすべきか?
あれもダメ。これもダメ。じゃあ何ならしていいの?と困ってしまった方へいくつかアイディアをお伝えしましょう!
- 標高の低い地域を探索し、人々と出会い、文化に浸る。
- ダイビング器材のチェックとクリーニング。
- 海をテーマにした映画や本、バーチャル・アドベンチャーに浸る。
- 次のダイビング旅行のリサーチ。
- ログ付け。
- 心を落ち着かせるために、自分を見つめ直したり、瞑想したりする時間を持つ。
- 写真を整理してソーシャルメディアで共有する。
- ショッピングに行く。
- 水分補給をし、ローカルフードで満たされる。
- PADI eラーニングで次のコースを始める。
- …あるいは、友人と一緒にぶらぶらしたり、くつろいだり、リラックスしたり!
ダイビングを始めてみよう!
ここまで読んでみて、まだダイビングを習っていない人は、ダイビングは体に良くない趣味なのではないかと思うかもしれませんが、そうではありません。正しく行えば、ダイビングは安全で、実際に体力、メンタルヘルスを高め、交友関係を広げることができます。講習を受けることで、陸上に戻ってから、何をすべきか、すべきでないかをきちんと学ぶことができます。
PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コースで、自分らしく生きる人生をスタートしましょう!