私たちの暮らしのすぐそばに広がる、日本の海。地域ごとにまったく異なる表情を持つ海があり、潜るたびに新しい発見があり、何度訪れても飽きることはありません。

日本各地の海で日々ダイバーを案内するPADIインストラクターたちは、その海ならではの魅力を誰よりも知る存在です。この連載では、そんな現地ガイドの視点から、日本の海の魅力を紐解いていきます。


西川名ダイビングサービス 寺本 拓海さん

西川名ダイビングサービス店長の寺本です。皆さんからは「テラモ」の愛称で呼ばれています。

小さい頃から父に連れられて、毎年何度も海へ遊びに行っていました。その頃から海が大好きで、海へ行けば夕方までひたすら水の中で遊んでいたことを覚えています。

そんな私がダイビングを始めたきっかけは、友人に誘われて参加した体験ダイビングでした。ただ、初めてのダイビングは決して順調ではありませんでした。耳抜きがうまくできず、水中ではなかなかバランスも取れず、潜降するだけでもひと苦労。やっとの思いで水底までたどり着きました。

そこで初めて経験したのが、「水面を見上げる」ということでした。水中から見上げた景色にあまりにも感動し、鳥肌が立ったときの感覚は今でも鮮明に覚えています。その瞬間、自分の中で何かのスイッチが入りました。そこからは、耳抜きや船酔いに苦戦しながらも、夢中になってステップアップ。

そして、もっと海の近くで過ごしたい、ダイビングの魅力を人に伝える仕事がしたいという思いが強くなり、それまで勤めていた仕事を辞めてインストラクターの道へ進みました。

自分自身が潜降や耳抜きに苦労した経験があるからこそ、同じような不安を抱えている方の気持ちもよく分かります。潜降が苦手な方や耳抜きに不安がある方にも、一人ひとりのペースに寄り添いながら、その方に合ったアドバイスをすることを大切にしています。


西川名の海を仕事の舞台にしようと思った理由は?

実は、私が初めて体験ダイビングをしたのも、その後ステップアップしてダイブマスターになったのも、すべて西川名の海でした。

ダイビングを始めた頃から潜り続ける中で、魚影の濃さやダイナミックな水中景観はもちろん、潜るたびに違った表情を見せてくれる西川名の海に、どんどん惹かれていきました。気がつけば、「この海でもっと潜りたい」「西川名の面白さを多くの人に伝えたい」と思うようになり、それまで勤めていた仕事を辞めて館山へ移住。西川名を仕事の舞台に、インストラクターとして働くようになりました。

現在も、私が潜る海の99%以上が西川名です。それだけ潜り続けていても、海に入るたびに新しい発見があり、いまだに飽きることがありません。長年この海を見てきたからこそ分かる変化や、その日、その瞬間ならではの西川名の面白さを、ガイドとして皆様にお伝えしていきたいと思っています。


寺本さんが考える、西川名の海の魅力は?

起伏に富んだダイナミックな水中地形に、黒潮の影響を受けた潮が入り、多種多様な生き物たちが集まります。そして、西川名ならではの魅力としてぜひ体感してほしいのが、「魚との距離の近さ」です。手を伸ばせば届きそうな距離、時にはそれよりも近くで魚たちを観察できることもあります。

これほど魚との距離が近いのは、西川名の海が魚たちにとって暮らしやすい環境だからなのかもしれません。海の中では魚たちのほうが圧倒的に有利で、こちらを気にすることなく悠々と泳いでいる。そんな姿を見ていると、魚を「見に行く」というよりも、「魚たちが暮らす世界に、私たちがこっそりお邪魔している」という感覚になります。

また、短い時間の中でも大きく変化する“海の表情”も、西川名の面白さのひとつです。

1ダイブ目は少し濁っていたのに、2ダイブ目にはすっかり透明度が上がっていたり、穏やかだった海に次のダイビングでは流れが入っていたり。わずか1時間ほどで、水中の様子がガラリと変わることも珍しくありません。変化が大きい海だからこそ、潜るたびに違った景色や出会いがあります。

ダイビングの99%以上を西川名で潜ってきた私が、今でも飽きることがないくらいです(笑)。何度潜っても新しい発見があり、そのたびに「やっぱり西川名は面白い」と思わせてくれる。それが、私が感じる西川名の海の魅力です。


西川名に来たらここに潜ってほしい!おすすめポイント3選

メバル谷

比較的フラットな地形が広がる西川名の中で、大きく隆起した根が特徴的な「メバル谷」。水深約24mの谷から水面下2mほどまで根が立ち上がり、複数の水路が形成されたダイナミックな地形を楽しめます。

時期によってはキンメモドキの大群や、100匹ほどのコロダイの群れが見られることも。谷の壁沿いでは、ウミウシやエビ、カニなどのマクロ生物も観察できます。

サメ穴

Aポイントから西方面へ進んだ先にある「サメ穴」は、いくつもの岩が集まってできたポイント。砂地や平磯に岩が点在する比較的シンプルな地形ながら、潮当たりが良く、年間を通して濃い魚影が楽しめます。

シーズンにはイサキの群れをはじめ、トビエイの大編隊やブリ、カンパチの群れが現れることも。過去にはハンマーヘッドシャークの群れや、ジンベエザメが姿を見せたこともあります。

程よく潮が入っていると、「今日は何か出そう!」と期待が高まる場所。どんな出会いが待っているかわからないワクワク感が、サメ穴の魅力です。

③V字谷

西川名の代名詞ともいえる「V字谷」。Cポイントからアクセスしやすく、隆起した根の一部がぽっかりと開いたような地形が特徴です。

ここでぜひ見てほしいのが、ヒゲダイがずらりと並ぶ光景。多いときには20匹ほどが一か所に集まり、まるで“ヒゲダイの集会所”のようです。また、大型のクエがクリーニングを受けにやってくることもあり、ヒゲダイと一緒に並ぶ姿が見られることも。

程よく潮が入ることで多くの魚が集まり、一年を通して魚影が濃いのも特徴。西川名に通うダイバーからも人気の高いポイントです。


西川名の海でガイドするうえで寺本さんが心がけていること

西川名というと、ダイナミックな水中景観や潮流、大物との遭遇が期待できる海というイメージが強く、「中・上級者でないと潜れないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、ある程度流れのある海に対応できるスキルがあれば、決して上級者だけの海ではありません。

だからこそ、私がガイドするうえで特に大切にしているのが、事前のブリーフィングです。これまで自分自身やゲストが経験したトラブルを振り返り、どうすれば事前に回避できるのかを考え、ブリーフィングに反映しています。その日の海況とゲスト一人ひとりの経験やスキルを確認し、水中で起こり得るリスクをできる限り事前に減らすことを心がけています。

もちろん、いただいたリクエストにはできる限り応えたいと思っていますが、水中で決して無理はしません。私たちガイド・インストラクターの大切な仕事は、一日を終えたときに「ああ、今日もいい海だった。楽しかった」と思って帰っていただくことだと考えているからです。

「安全」と「安心」という土台があってこそ、心からダイビングを楽しめる。「テラモと潜っているとリラックスできる。安心してダイビングができる」と思っていただけるようなガイドを、これからも心がけていきたいと思っています。


西川名に潜りに行きたいと考えているダイバーへのアドバイス

西川名でのファンダイビングに参加するための認定レベルに規定はありませんが、潮の流れが入ることも多いポイントです。より快適に西川名の海を楽しむなら、PADIアドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー以上の認定に加え、ボートディープドリフト・ダイビングなどを経験しておくことをおすすめします。西川名ダイビングサービスでも、これらのコースやピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー(PPB)などを受講できます。

また、水中ライトを持って潜るのもおすすめです。岩場の隙間を照らしてみると、ワイドな魚群や大物だけではない、小さな生き物たちとの出会いも楽しめます。

そして、西川名を訪れる皆さんには、ぜひこの海の環境にも目を向けてもらえたらと思っています。西川名では近年、磯焼けなどの影響によってカジメがほとんど見られなくなっています。そこで私たちは漁協と協力し、岩肌を覆うサンゴ藻を除去して、カジメなどの海藻が着生しやすい環境をつくる取り組みを続けています。

さらに、より多くのダイバーに海の変化を知り、見守り、再生につなげてもらいたいという思いから、「海の森再生ダイブ」を立ち上げました。活動を行った場所では新たな海藻が生え、「アントクメ」も確認されるなど、少しずつ変化が見られています。

海を楽しむことはもちろん、その海で今何が起きているのかを知ることも、ダイバーだからこそできることのひとつです。海洋環境の保全に関心のある方は、ぜひ「海の森再生ダイブ」にも参加して、西川名の海の変化を一緒に見守っていただけたらうれしいです。

《西川名ダイビングサービス》

[ショップDATA]

千葉県館山市西川名849-4 <Map>

TEL:090-5153-3521

営業時間:8:00~17:00

定休日:年中無休

ウェブサイト:https://www.nishikawana-diving.com/

西川名ダイビングサービスでは、ダイバーの皆様が快適に利用できるよう、ダイビング専用に設計された施設と自社ボートを備えています。

水中にはガイドチェーンを設置しており、潮流がある場合にはチェーンを使って移動することもできます。また、沖のメインポイントだけでなく、経験やスキルに合わせて楽しめる穏やかなポイントもあるため、西川名が初めての方にも安心してダイビングを楽しんでいただけます。

ファンダイビングや各種コースはもちろん、ダイビングのプロを目指す方向けのコースも開催しています。

初めて西川名を訪れる方から、ステップアップを目指す方まで、それぞれに合った西川名の楽しみ方をご案内します。ぜひ一度、西川名の海を体感しに来てください。


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