海底一面にサンゴの群生が広がり、そこに無数のトロピカルフィッシュが群れる……サンゴ礁には、まさに「海のオアシス」と呼ばれるにふさわしい美しさがあります。
しかし、サンゴ礁は単に美しいだけではなく、私たち人間の生活にとっても非常に大きな役割を果たしているのです。
なぜサンゴ礁を守ることが大切なのか、まずはここから考えてみましょう。

 

サンゴ礁の持つ大切な機能

サンゴ礁が持つ機能には、以下のようなものが考えられています。

― 二酸化炭素を吸収し、酸素を供給 ―

サンゴの大きな働きのひとつが「二酸化炭素を吸収し、酸素を供給する」ということ。これが、サンゴ礁が「海の森」とも呼ばれる由縁ともなっています。これはブルーカーボンとも言われており、近年では陸上(グリーンカーボン)よりも大きな二酸化炭素吸収量がある海に着目されています。
そのメカニズムはというと、サンゴはポリプと呼ばれる部分の細胞内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる植物プランクトンを共生させており、その光合成によって二酸化炭素を吸収、酸素を供給しているのです。その量は陸上の木を上回ると言われており、さらには、サンゴ自身も二酸化炭素を吸収して、石灰質の骨格を作っています。現在、地球温暖化の原因となっているといわれる二酸化炭素の削減のために、サンゴ礁は欠かせない存在なのです。

―「海のオアシス」として、多くの生き物にすみかを提供 ―

サンゴ礁が「海のオアシス」と呼ばれるのは、その豊かな生態系によるもの。通常、サンゴ礁のあるところは、透明度が高い=プランクトンなどの栄養分が少ない(貧栄養)エリアなのにもかかわらず、海の中で最も生物が集まる場所となっています。
というのも、前述したようにサンゴ内の褐虫藻は光合成によって酸素を供給しますが、そのほかにも栄養分となる炭水化物やタンパク質などの有機物をつくり出しています。この栄養分は、サンゴが自分で使用するほか、余ったものは海中に流れ出して、小さな生物たちの栄養分に。つまり、食物連鎖の底辺にサンゴがいることになり、そこに豊かな生態系がつくられるというわけです。
また、枝状やテーブル状など複雑な形をつくり、しかも硬い骨格を持つサンゴは、生物たちのすみかとしても最適。サンゴの陰、隙間、裏側、穴など、さまざまな場所にすみかがつくられており、多種多様な生物を観察することができます。実に6万種類以上の生物がサンゴ礁で観察されていると言われています。

― 重要な漁場 ―

上記のとおり、サンゴ礁にはさまざまな種類の生物が集まります。人間にとって、そこは重要な漁場となります。

― 海岸を取り巻く防波堤の役割を果たす防災機能 ―

海岸を取り巻くサンゴ礁は、地震による津波や台風による高波による被害を抑える、天然の防波堤としての役割も持っています。モルディブでは1キロの防波堤を作るのに約16億円(1200万ドル)かかったそうですが、これは見方によれば1キロのサンゴ礁に16億円ほどの価値があるということ。サンゴ礁の価値を貨幣単位で表すことにはいろいろと議論の余地がありますが、サンゴ礁の重要性を表すひとつの指標といえるでしょう。

― 観光資源として大きな恵みを与えてくれる ―

数多くの生物がすむ水中がダイバーにとって最高の環境であるのはもちろんのこと、南の島らしい白砂ビーチもサンゴ礁からの贈り物。ブダイなど一部の魚は、サンゴのポリプを骨格ごとガリガリと食べてしまいますが、消化できなかった骨格はフンとして排出されます。そのフンをゴカイやナマコが食べることできれいになり、白砂ができ上がるというわけです。

― 環境をきれいにする役割もある ―

サンゴ礁にすむ生物が流入してくる有機物を摂食することにより、その量が減少し、水質やなどの浄化につながります。

ー 地球の環境の指標に ―

「白化現象」に代表されるように、地球の環境の指標としても利用できます。また、サンゴの骨格から、過去の気候の変動などが調べられ、研究上でもおおいに役立ちます。

そのほか、医薬品や化粧品の成分として利用されたり、沖縄などでは建造物の素材にもなっています。

 

私たちができること

AWARE(日本)では、サンゴの植え付けをはじめ、サンゴ再生に向けてのさまざまな活動を行なっています。そのどれもが、ダイバーの皆さんも参加できるもの。下に紹介する活動にぜひ皆さんも参加して、サンゴ再生に向けて一緒にがんばりましょう!
AWARE:日本の活動」のページもぜひご覧いただき、サンゴを守ることにつながる活動にご協力ください!

― サンゴの植え付け活動に参加する ―

海の中にサンゴを植え付けるという活動ができるのはダイバーだからこそ。自分の手でサンゴの再生に携わっていることが実感できるはずです。ただし注意したいのは、やみくもなサンゴの植え付けは、かえってサンゴへのダメージにつながりかねないということ。研究や調査に基づいたルールにきちんとしたがって、サンゴの植え付けに参加しましょう。
AWARE(日本)では「チーム美らサンゴ」、「美ら海振興会」と協力して、サンゴの植え付けを行なっています。一般ダイバーが参加できるイベントも開催しているので要チェックです。

チーム美らサンゴ

沖縄県・恩納村で、サンゴ苗の植え付け活動を通じて、一般ダイバーにサンゴ礁の生態系の再生の一端を担ってもらうことや、沖縄の海で起こっている変化を見て「美ら海を大切にする心」を多くの人に広げていくことを目的としたサンゴ再生プログラムです。

  

NPO法人 美ら海振興会

かつての沖縄の美しい海を取り戻したいという志のあるダイビングサービスにより結成。国内最大規模のサンゴの植え付けを行なっているほか、陸上&水中清掃や、サンゴの天敵となるオニヒトデ、レイシガイダマシの駆除など、幅広い活動を行なっています。

  

― ダイビング・スキルと意識の向上 ―

「サンゴを守りたい」と思ったら、いきなり行動しようとするのではなく、まずは正しい知識を身につけることが大切。むやみに行動しても、効率が悪かったり、間違った行動でかえって悪影響を与えないとも限りません。サンゴについての正しい知識を身につけ、サンゴの保護を意識したダイビング・スキルを実践するようにしましょう。
そのためには、この記事で紹介している情報をしっかりと理解するのはもちろん、環境を守るために必要な知識とスキルを身につけられるAWAREをテーマとしたPADIのスペシャルティ・コースを受講することも有益です。ダイバーでなくても受けられるコースもありますので、家族や友人も誘って一緒に参加するのもおすすめです。

…など

― 海洋プラスチック問題を考える ―

海中に投棄される「ゴーストギア」を考える

近年では海洋マイクロプラスチックが問題視されています。海洋プラスチックごみによって、多くの海洋哺乳類、海鳥、ウミガメなどの生物が被害を受けていますが、サンゴの生息にも影響を与えています。海洋プラスチック被害の中でも最も危険なものが皆さんも聞いたことがあると思われる「ゴーストギア」。「ゴーストギア」とは海中に投棄された廃漁網などのこと。漁網が覆い被さることによるサンゴや海藻群落などへの悪影響があります。それだけでなく、プラスチックに含まれる化学物質による生物・水質の汚染などの海洋生態系へのダメージ、本来あるべき漁獲の減少、景観の悪化による観光業へ影響などの社会・経済的ダメージもあるのです。

AWARE(日本)では、新しい取り組みとして「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」を2022年よりスタートしました。地元漁師と地元PADIメンバーの協力を得て、トライアルを繰り返した結果、活動開始することができました。
ぜひ皆さんもこのような活動にご参加・ご協力ください!

廃漁網の回収とリサイクルプロジェクトの詳細はこちら
PADIブログ「AWARE(日本)の新しい取り組み 「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」がスタート」

おまけ

2010年頃にPADIは「サンゴ礁の保護スペシャルティ・コース」をリリースしました。その少しあと、リーフ財団の協力でサンゴ礁保護のイメージビデオを作成しました。このビデオのナレーションはアメリカの映画俳優であり映画監督でもあるエド・ハリスです。1989年、ジェームス・キャメロン監督の深海に潜む生物体との遭遇を描いたアドベンチヤー・ロマン「アビス」で主役を演じました。
当時の本国のAWARE担当者が彼にアポなしで電話をかけ、ナレーションのお願いをしたらその場でご快諾いただいたという逸話もあります。
とても古いムービーなので画質もよくないですが、今見ても色褪せることのない、メッセージ性の高い内容です。ぜひご覧ください。

 

 

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